業務報告はキスのあとで


 そして。その、綺麗な女の人に盛大なビンタをお見舞いされていて、私がハンカチを渡してしまった男の人というのが。


「平岡さん……だったんですね」

「そういうこと。やっと分かった? まあ、でも、相当ダサいとこ見られちゃったね」


 悪いけど、アレ、忘れて? と、笑顔で付け足した平岡さんに私は何故か無性に腹が立ってしまったけれど、あんな事、私には関係のない事だ。


「別に、忘れるもなにも私には関係ない事です」


 忘れるとか、覚えておくとか、そんなこと以前に記憶にも残らない。

 平岡さんは、会社の上司というだけで、職場以外ではただの他人だ。今朝だって、本当に偶然街中で見かけてしまった。それだけの事。

 実際に、今の今まであの男の人が平岡さんだったなんて知らなかったわけだし、彼が何者で何をしていようが私にはこれっぽっちも興味はない。


「へえ。関係ない、ね」


 平岡さんは、一人呟くように言う。でも、何故か表情は笑っていた。

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