口の悪い、彼は。

3

 



美都さんと笑顔で別れた後、マンションに着いた私はエントランスに入らず、外からぼんやりとマンションを見上げていた。

マンションのさらに上には、真っ白で街を照らすほどの明るい月がぽっかりと浮かんでいる。

今日は満月らしい。

私は空に向かって、はぁと息を溢す。

いろんなことを一気に知りすぎて疲れた。

それと同時に、わからないことも増えてしまった。

……千尋の心の中だ。

ここからだと千尋の部屋は見えない。

千尋はもう部屋にいるのだろうか。

会いたい。……けど、会うのが怖い。

私の頭の中はやっぱり千尋でいっぱいだなと思いながら、お酒のせいか、美都さんから聞いた話のせいか、身体の奥底でくすぶっている熱を冷ましたいと思った。

頬を撫でる風がひんやりとして気持ちいいし、ちょっと散歩してから帰ろうと、私はマンションの入り口とは反対方向に向かって足を踏み出す。


「おい。何やってんだ」

「っ!」


一歩踏み出した瞬間、後ろから大好きな人の声が聞こえてきて、私ははっと振り返った。

そこにいたのはスーツ姿ではない、私が一番大好きなオフの姿の千尋だった。

 
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