口の悪い、彼は。
 

「……。え?」

「さっさと降りろ。狭いから横にぶつけんなよ」

「あ、は、はい……」


シートベルトをはずしながら、頭の中に湧いた違和感の原因を探る。

……いや、探るまでもない。

ここに“部長の車の駐車スペース”があるということは、考えられることはひとつしかない。


「嘘。まさか……」

「たまには察しがいいこともあるんだな。そのまさかで正解だ。行くぞ」

「えぇっ!?」


私が叫んだ瞬間、部長はすでにドアを開けて外に出ていた。

私も慌てながらも隣に止まっている車にぶつからないようにドアをゆっくりと開け外に出て車のドアを閉めると、ピッ、カチャッと車の鍵が閉まる音が聞こえた。

嘘だ、信じられない。

まさか部長が同じマンションに住んでいたなんて……。

っていうか、部長は前から私と一緒のマンションに住んでるって知ってたってこと!?


「部長も同じマンションに住んでたんですね!全く知りませんでした!何で教えてくれなかったんですか!?教えてくれればいいのに~」

「言う必要があるか?ただの部下に自分の棲みかを知らせる義務なんてない」

「うっ。そ、それはそうですけど……」

「だろ?」

「……はい。ただの、部下……ですもんね」


私はぐさりと胸に突き刺さった言葉をつい繰り返してしまう。

そうだよ。

部長にとっては私なんて『ただの部下』なんだから、部長が住んでいる場所を知らないのは当然なんだ。

ってわかってはいても、ストレートに言われるとへこんじゃうよ……。

部長のストレートに気持ちを言うところは清々しくて嫌いじゃないけど、オブラートに包んで欲しいこともやっぱりある。

たまたま同じマンションに住んでいるから、ついでだしと車に乗せてくれただけだったんだ。

それだけでもすごく嬉しいと思うけど、やっぱり部長には簡単に近付けないんだな、と思うと悲しくなってしまって、ついつい目線を落としてしまう。

 
< 82 / 253 >

この作品をシェア

pagetop