狂気の王と永遠の愛(接吻)を・センスイ編収録

センスイの想い人

すると…驚きに目を見開いていたセンスイだったが…


「…私には心からお慕いしている女性がおります…」


「むやみに貴方へ近づいた事、どうかお許し下さい」


「……」


アオイは無言のまま顔を俯かせる。
わかっていはいたが、やはり口にされるとショックが大きいのだ。


「…私は人より長い時を生きてまいりました。その中で出会った方にアオイさんが似ているのかと初めは思いましたが…」


「クジョウに言われて気が付きました。貴方は私の想い人に似ているのだと…」


「私が学園に入った理由も、貴方が入学してくるとわかったからです。私がアオイさんに心惹かれる理由がどうしても知りたかった―――」



(…そういう事だったんだ…)



やっとアオイの中で何かが繋がった気がする。
保健室前で初めてセンスイと出会った時、彼が自分の名を知っていたわけがそこにあった。

無意識に目頭が熱くなり、涙が零れぬよう必死に耐えようとするアオイだったが…


"…平和な国でのうのうと生きる王と姫…か…"


センスイの口から"クジョウ"という名を耳にしたアオイは彼の言葉を思い出した。


(そうだ…感傷に浸ってる場合じゃない。私はセンスイ先生の力になりたいんだもの…)


自分に言い聞かせるように心の中でそう唱えたアオイは、穏やかな笑みを浮かべ…彼の手を優しく握りしめた。


「…いいんです、気にしないでください。それより、先生やその彼女さんたちの居場所を守るお手伝いを…私にさせてくださいませんか?力になりたいんです」


「…アオイさん…」


(…この心優しき少女に、私はなんて酷い事をしてしまったのだろう…)


自責の念に駆られながら、己の手を優しく包み込むアオイの手を握り返したセンスイは、彼女を慈しむようにそっと手の甲へと口づけを落とした。



「…貴方のそういう優しさが…彼女と、とてもよく似ているんです…」



―――ズキン…



「そうですか…」



センスイの口から"似ている"と聞くたびにアオイの胸は強く締め付けられるように痛んだ。


「私に力はないけれど…お父様だったら、きっと何とかして下さるはずですから大丈夫です…って、結局お父様頼みなんですけどね」


と、苦笑いを浮かべるアオイ。すると…



「…キュリオ殿が?」



ピクリと悠久の王の名に反応したセンスイ。やがて顔を上げた彼は冷たい表情でアオイを見つめ返した。






「…いいえ、彼では無理です」







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