気づいた唇 
気づいた唇


なんていうか。
ああ、こういう人、素敵だな。
そう、逢うたびに思っていただけだった。

シンプルなスーツだけれど、ネクタイには気を遣っている。
靴は、いつも綺麗に磨かれていて、背筋がピッと伸びていた。
先輩にはきちんと挨拶ができて、後輩には上目線になり過ぎないように少しだけ崩した自分を見せる。
そんな風に、さり気なくできる気遣い。

彼とは、出社時刻が大体いつも一緒で。
エレベーターに乗り合わせることが度々あった。
部署が違うし、仕事上も絡むことがないから、話すことなんて全くない。
だけど、度々会うものだから、きっと向こうも思っていたんだろう。
あ、また、逢った。と。

エレベーターで乗り合わせた時に、軽く会釈をしたのは何度目だろう。
どちらが先に頭を下げたのかも覚えていないけれど、気がつけば逢うたびに会釈をするようになっていた。
その会釈だけの毎日から、話すきっかけとなったのは、ついさっきのこと。



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