人工知能を搭載したロボットが、人間の人口数を上回って10年が過ぎた。

SF映画で見るような、ロボットが暴走して人間を襲うなどということは一切なく、もしなんらかの事故で暴走したとしても、その時は自爆プログラムが発動し自ら命を絶つことになっている。

まあ、命を絶つと言っても、元々彼等は鉄の塊である訳だが。

体力も知能も外見も、人間より遥かに優れた完璧な彼等が唯一人間より劣るものーー……それは、「感情」であった。

ロボットより数が少なく「貴重な存在」となった我々人間たちの殆どは、彼等の情緒を発達させる「講師」となった。

「こら、イチ、バスタオルを干す時は4ヶ所きっちり洗濯ばさみでとめてほしいって言ったじゃない」

「それは申し訳なかった」

「今までホームステイに来たどのロボットよりも、イチは無愛想で覚えが悪いわ」

黒髪高身長永遠の25歳(現在人間たちと混ざって弁護士として働いている)で、清潔感溢れる爽やか青年設定のイチは、美しく完璧な顔を少し歪ませた。この半年間でどうやら不快な気持ちだけは表せるようになったらしい、よしよし。

かくして、私もいわゆる「情緒発達講師」兼少女漫画家なのだが、ロボットを受け入れたのはイチが3人目であった。

イチと暮らし始めて半年が経ち、とくに語学と情緒に長けたロボットになるよう成長させたいとお願いされているのだが、彼の情緒はあまりよく発達していない(成長が見られないからと言って何か罰則があるわけでもないが)。

ロボットを受け入れると手当として月に15万支払われるので、ロボットのせいで殆ど職を失った私達人間は、この制度を有難く受け入れている。少女漫画家なんてこの時代に儲かるはずもなく、私もその一員の一人だ ( しかしストーリーを考えそれを絵に表しさらに担当と相談をして内容を濃くする……なんてことはまだロボットにはできないので、無くならない職種なのだ )。

「無愛想? ロボットは皆プログラムされて表情を動かしている。例えばカッコイイという単語が会話に入っていれば俺は微笑む」

「あーじゃあカッコイイカッコイイ……微笑まないじゃない!」

「ヨリ様の声のトーンと瞳の動きが変わらなかったので反応しない」


淡々といかにもなロボットのように話すイチを見て、私はため息をついた。

漫画のネームがなかなか進まない中、こんな風に淡々とした声を聞かされたらますます頭が痛くなってくる。

私は思わずトレース台にそのまま突っ伏した。