アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
「ヨリ様、俺に愛を教えろ」2
人間とロボットの違いを考えるとしたら、人は何を思い浮かべるだろうか。
強度、感情、記憶力、外見の完璧さ……。
どこを人間と同じにしたらロボットはより人間に近づくのか、技術者は考えた……そして気付いた。最も根本的なことに。
そう、ロボットは〝間違わない〟のだ。
間違えてこそ、〝人間〟なのだ、と。
「そうして生まれたのがWD-7083型である俺だ」
「使いかけのマヨネーズは逆さにして冷蔵庫に入れてって言ったよね? こんな単純なことも覚えられないの? ん?」
「仕方ない、俺は〝完璧〟過ぎないように作られている」
踏ん反り返ってそう言い放つポンコツロボット、イチと暮らし始めて一年を迎えようとしていた。
雪の降る日に私の家にやってきたイチ……彼は感情や言葉の飲み込みだけは恐ろしいほど早かったが、何故か私の命令やお願いだけはすぐに忘れるというとんでもなく忠誠心に欠けるロボットだった。
私はマヨネーズを冷蔵庫に逆さにしてしまってから、原稿に溢れかえったデスクに戻った。イチはソファーに背筋をピンと伸ばして座りながら、つい最近アップデートされた自分の情報がどんなものなのか、マニュアルを眺めている。
「なるほど……ヨリ様、これはかなりの進歩だ」
イチが感動したように少し震えた声で呟いたので、私は椅子をくるっと回転させて彼の方を向いた。
「なに? どういう機能が新しく増えたの?」
そう聞くや否や、彼はバシッとマニュアル本を閉じて急に外に出た。
突然の行動に驚いて玄関口まで彼を追いかけたが、今日の気温は4℃であったので、さすがに寒過ぎて外にまでは出られなかった。
開け放たれたドアから流れ込む刺すような冷気に耐えながらイチを呼ぶと、彼はくるっと振り返り見たことないようなキラキラとした表情を私に見せる。
そして、玄関口に立っていた私に近づき、急に私の腕を引っ張り抱きしめた。
「あったかい……」
「え……」
「あったかい、ヨリ様……」
耳元でそう囁いた彼は、私の後頭部に手を回し、ぐっと胸におしつけた。心臓の音は聞こえないし、彼の体は冷え切っているのに、何故かドキドキした。