おしゃれでおいしいと定評のある落ち着いた雰囲気のカフェで、晴香さんと私は机を挟んで向かい合わせで座っている。

土曜日の夜という、いつもならバイトをしている時間。

今日はランチタイムのメンバーが足りなくて昼にバイトで、夜はフリー。

ディナーメンバーの好意もあって、早くも忙しくなる兆候を見せる店を追い出されるように後にした。

切り上げないと、そのまま忙しい時間に突入してしまって仕事上がりのキリが見つからなくなる。

ランチメンバーと本日の仕事をクリアした身体を伸ばしながら愛車の元へ向かうと、晴香さんが私の自転車を人質ならぬ物質してに待ち伏せしており、強引にカフェに連れ込まれた。

晴香に捕まるのは、心当たりがありすぎて、当然といえば当然。

落ち着いた音楽が静かに流れる店内で、コーヒーと看板メニューの季節のタルトが届くと、机に並べられたどれにも手をつけず晴香が身を乗り出す。

「さあ祥ちゃん、今日は吐いてもらうわよぉ」

「吐くって、こんな輝かしいケーキを前に失礼ですよ。腹ペコじゃないんですか?」

のらりくらりでかわせない相手だとわかってはいるが、フォークで晴香のケーキを指し示し、自分用の艶やかなケーキを崩す。

「もう、減りすぎて気持ちが悪いくらい。だって、あれから3日よ?なんで何も言ってこないのよぉ。タクシーでも敢えて何も聞かなかったのにお姉さん、気になって飢えそう」

晴香は好奇心を隠しもせず、両手で頬を添えて嘆く。

この後の予定もないし、店を出る理由が見当たらない。

晴香さんの目も最高に輝いている。

壁際に追い詰められたネズミはこういう心境だろうか。

祥子は天井に視線を投げて、頭の中を整理する。

「その、何とも言えなくて」

恋愛のブランクを理由にしてよいのか、頭より体が拒否する事態を話すべきか、ため息混じりに言葉をこぼす。

期待の眼差しを向けてくる晴香の顔を確認して、視線は気持ちとともにテーブルに落ちる。

浮かれていた歓迎会から3日経っても、心の整理が付かない状況が続いている。

好意を向けていた広瀬さんに、アプローチを返してもらった、はずだ。

自分の記憶が正しければ。

記憶がトンだわけではない。ちゃんと覚えている。

家に帰るまで、詳細に。

ただ、酒量の限界がわからず、勧められるままに出されたアルコールを飲んで、酔っ払っていたのは間違いない。

そこそこ飲める口だったようで、気持ち悪くも、頭が痛くなることもなく、隣には思いを寄せているいい男が座っていて、実に気分がよかった。

ホストクラブはこんな感じかもしれない。

カラオケという場所がお互いの距離を近くした。

全然声が聞こえないから、まともに会話をするには、だいぶん体力を使う場所だったけれど、遠慮なく顔をを近づけて話をした。

背もたれに回された腕の中に居るという、ひと時の恋人の距離感を疑似体験して、堪らなく幸せな気分だった。

それがシラフの時なら恥ずかしくてそう感じられたのかは疑問で、判断力が著しく鈍くなっていたのは間違いない。

「話がまとまらないのは、仕方ないと思ってください」

「Sure、go ahead」

英文科所属の発音で、色気たっぷりに片目をつぶる晴香に観念して、ソファー席に座り直し腕を組む。