手の届く距離
晴香の彼氏ならもっと遊んでそうなイケメンを連れているイメージだったので、意外かもしれない。
「じゃあ、俺のことを放って置いてデートの続きしてくださいよ」
一人で待っている悲しさを痛感して拗ねたような言い方をしてしまう。
「ちょっと声かけただけでしょ。この間祥ちゃんと話をしててね、後輩君なら祥ちゃんの元彼の話知ってるだろうと思って。今度聞かせて欲しいの。よろしくねぇ」
なぜ今更刈谷先輩、祥子さんの元彼の話なんか、と怪訝な顔を向けたが、晴香は気に留めることもなくさっさと立ち上がって彼氏の手を引く。
手を振って歩き出す晴香さんの後を、彼氏は律儀にこちらにもう一度会釈をして歩き出す。
ヒールを履いている春香さんと並んで、あまり身長が変わらない小柄な彼氏。
持ちもの、というと聞こえが悪いが、連れて歩く彼氏の見た目もかなり重視しそうなのに、小柄な晴香さんがあまり身長の変わらない男が隣にいるのに新鮮な気分を抱く。
突然現れて、あっという間に去った二人を見送った俺の耳に由香里の叫ぶ声が届く。
「健太!健太ー!」
立ち上がって声の主を探すと、長い髪を揺らして必死な様子で走っている由香里を見つけて少し頬が緩む。
遅れたからってそんなに必死にならなくてもいいのに。
待ちぼうけをくった気持ちも解消される。
「由香里、こっち!」
手を伸ばせば目印になる長身はこういったときに便利だ。
由香里も気づいたようで、真っ直ぐにこちらに向かってくる。
しかし。
「ついて来て!」
俺の前で止まることなく、手首を掴まれて、引っ張られるまま走り始めた。
「何、どうしたの?」
「後で!」
すでに息の上がっている由香里は短く言い放って走るのに専念する。
何故だかわからないゴール不明のマラソンに仕方なくついていく。