「さすが関谷さん。最低ですね。男なんてみんな狼だ」

かなっぺは俺の背中にその身を隠すと、顔だけ出して軽蔑を込めた言葉を投げつける。

こういう時は壁に徹する。

「そういうなって、かなっぺ。ちゃんと選り好みするし、可愛い子しか食べないよ。かなっぺもこの後どうよ」

「こっちにも選ぶ権利があります」

関谷さんがいつものごとくかなっぺを口説きに掛かるが、すげなくあしらわれる。

このくらいの返しができなければ、ダラダラ組に残っていられない。

「かなっぺ、遊び人モテ男を男性の標準だと考えないでくれ!箸にも棒にも引っかからない非モテ男子は女子を大事にするぞ!」

「トシさん、男前なんですから、あとは自信っす」

「トシさんキモイ」

あまりに自分を卑下するトシさんの擁護に回ったが、かなっぺの一言は容赦なかった。

「ぬわぁ!かなっぺぇ、今の一刀両断はめっちゃイテェよ。健太の回復も間に合わなかった・・・」

トシさんの顔は平均以上だと思うのだが、よく言えば専門性の高過ぎる。

悪く言えばオタク傾向の強いトシさんは膝から崩れ落ちた。

その頭をどつくかなっぺとトシさんのやり取りは定番化してきている。

実は結構いいコンビだと思う。

じゃれあっているトシさんとかなっぺの話は放置して関谷さんが話を続ける。

「今は男だけが悪いわけじゃないわけよ。その子も狩りに来てた超肉食系女子でさぁ、俺としてはお互いあとくされなくてよかったけど、セフレと彼氏と俺で何股だよって話で、女って怖いわ。しかも、年齢詐称でさぁ。最初22歳大学4年って言ってたのに、実際は25の社会人。どうせバレるんだから、そういうことすんなよなぁって思うんだけど」

「女って平気で嘘つきますもんね」

まだ癒えていない傷を触れられるようで、耳が痛い話にしみじみ頷いてしまう。

「川原がやさぐれとはコメント珍しいな。別れたか?!」

「うそぉ?!この間私にデートスポット聞いてきたのは何!」

「いや、その、まあ」

嬉しそうに食いつくトシさんとかなっぺに、否定しかけたが、隠しても仕方ない話なので、しぶしぶ頷く。

「ようこそ同士よ!」

「まだ傷心中っす。ほっといてください」

腕を広げて抱きつこうとしたトシさんのおでこを掌で受け止め、腕の長さを最大限有効活用して阻止する。

祥子さんに預けざるを得なかった、常識的でないメールの嵐も止んで、やっと傷口と向き合える環境が整ったところだ。

傷を塞いでいく作業はこれから。

正直なところ、まだ笑って話せるほどの時間は経っておらず、言ってみて改めて気持ちが落ち込む。

「そっかぁ、川原まだ18だろ。まだまだ本気も遊びもこれからだ。励めよ」

よくわからない慰めは関谷さん。

ポケットから大量の名刺を広げてトランプのように広げる。

促されるまま1枚引いてみると,どこぞの店の名前と源氏名だろう『アゲハ』とが書かれている。

行けということか。

その名刺をトシさんに横から奪われる。

「こう店ならいいけどさぁ、うちの店長のセクハラ加減やばくね?あそこまであからさまだとギャクで済まされるわけ?2次会なんてがっつり晴香さん抱え込んじゃってさ。気持ちはわかるけど、やりすぎだよなぁ。副店長もさ、この間の歓迎会、祥子さん狙いだろ。彼氏募集中掲げてんだから、次はかなっぺだぞ」

かなっぺは、嫌そうな顔をして首を横に振る。

「私あーゆう、甘ったるいタイプダメ。あざとい」

当たり前かもしれないが、広瀬さんの評価が人によってこうも変わるものか。

夢見心地の祥子さんの熱い評価との違いを感じて新たな視点にも納得する。

「川原も、来るもの拒まず去るもの追わずで切って捨てて遊びまくれるようにならなきゃなぁ。よし、失恋の痛みは女で癒す!これから一緒に可愛がってくれるお姉さんとこ行くか!」

「関谷さん、やめて。川原を汚さないでくださいよ」

「こいつは俺の舎弟になったんだ、モテ男の弟子になんてしてやるか」

トシさんとかなっぺが揃って両手を広げ、俺と関谷さんの間に立つ。

なんだか守られてるのか、遊ばれているのかぐだぐだの空気に一緒になって俺も叫ぶ。

「トシさんの舎弟になったつもりないっすよ、弟子にもなりません!」

だんだん声が大きくなってしまうのは、夜中のテンション。

大きくなりすぎた声量に気づいて、お互い静かに、と唇に指を当てて笑い合う。

解散の空気になって、それぞれに挨拶して帰途につく。

俺も原付の隣でヘルメットを被っていたら、かなっぺが近づいてきた。