倦怠期です!
「そっかー。お金か。うちもね、私がまだ中学生くらいの頃、お父さんが浮気してさ」
「うわぁ」
「私の前では言い合いしたことはないんだけど、私が寝てると思ったのか、夜よく喧嘩してた。それで私は知ったんだー。当人の親が一番キツイんだろうけどさー、そういうの見聞きする子どもだって、正直キツイよね」
「うん。ホント、私もそう思う。やっと別れてくれてホッとしてる。でもね、本音を言うと、私、今でも一人暮らしをしたくてさー。でも“おまえの給料じゃ無理だろ”って因幡さんから言われてやっぱり?って思って・・・」
「ねえねえ。すずちゃんって、実は因幡さんのこと、好きでしょ」
「えっ!?なんで?」
「因幡さんの名前がよく出てくるし。それにすずちゃん、まんざらでもないって顔してる」
「うーん・・・それ、有澤さんにも言われたことがあるんだけどなぁ」
「有澤さん?」
「あ、うん。私と同期なんだけど、有澤さんは大卒だから私より4つ上で、エレベーター担当してる」
「じゃあ製作所に行ってるんだよね。ふーん」とコバちゃんは言いながら、私をじっと見ると、「なるほど」と呟いた。

「ええっとー、因幡さんねぇ。嫌いじゃないよ。口は悪いけど優しいし。だから好き・・だけど、でも何て言うか、因幡さんのことは恋愛対象として見てないし。私にとってはお兄ちゃんみたいな人だと思ってる」

と私は言いながら、そのときなぜか、有澤さんのことを考えていた。

「あぁそう。何となーくね、お似合いだと思ったんだけどなぁ。それに因幡さんって、冷熱来たとき、よくすずちゃんの話してるし」
「ええっ?なんかヘンなこと言ってないよね?」
「言ってない言ってない。でも因幡さんの話から、すずちゃんに会ってみたいなーって思ったよ」
「そう。ふーん・・・でも因幡さんには彼女いるよ」

これは因幡さん本人から聞いたので事実だ。

「えっ?そうなんだ」
「でもこれ、内緒じゃないんだけど、言わないでね」

背が高くて割とカッコいい因幡さんは、モテる方だと思う。
社内でも営業の若手ホープとして、上からも期待されているようだし、数少ない女子社員の何人かは、因幡さんを狙ってるような気がする。

私の前にいた大野さんは、因幡さんと別れたから辞めたという噂もあったらしい。
根も葉もない噂話を提供したくないからなのかどうかは知らないけど、彼女のことは社内ではあんまり知られたくない、みたいな口調で、看護婦さんの彼女のことを、ある日飲みに連れて行ってもらったときに話してくれた。

それに、因幡さんの彼女のことを知っているのは、私だけじゃない。
冷熱1課の中元課長と戸田さんも知ってるし、因幡さんの同期の小沢さんだって知ってることだ。
たぶん、冷熱2課のオジサマたちや部長も知ってるんじゃないだろうか。

「因幡さんって優しいし、頼りがいもある人だけど、いざ私がピンチになっても、助けてはくれないんじゃないかなぁ。そういう優しさは持ってないと思う」

でも有澤さんだったら・・・もしかしたら助けてくれるしれないと、その時私は漠然と、そして何の根拠もなく思った。

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