倦怠期です!
「“イカ天”出場することが目標だったんですけど、出る前に番組終わっちゃいました」と有澤さんが言うと、倉本さんは「あ、そう」と言いながらクスクス笑った。

ホント、有澤さんって相手の趣味とか年齢に合った話題を提供してるよなぁ。
だから誰とでもすぐに打ち解けることができるのか。

「私もね、昔歌手目指してたことあったのよ」
「えっ!?あ、そうすかー。ジャンルは?アイドル?」と有澤さんに聞かれた倉本さんは、「なに言ってんのー」と言いながら、有澤さんの腕を軽くパチッと叩いた。

「演歌。これでもね、一時期芸能プロダクションに所属してたのよー」

と言った倉本さんは、47歳。
私の母と同い年で、私と同い年の息子さんが一人いる。
そして倉本さんは、シングルマザー歴長年。

ショートヘアで目鼻立ちの整った顔立ちの倉本さんは、とても小柄で小顔だ。
たぶん身長は、140センチの前半だと思う。
そして痩せ型。
だからか、倉本さんの隣にいると、身長160センチで、ムチムチした体型の私は、自分がすごく・・・デカい女だと思えてしまう。

とある日、何の気なしに有澤さんに言ったら、有澤さんはククッと笑った。
そして「それ分かるわー。俺、倉本さんの隣にいると、自分がガリバーになったように思える」って言ったんだよね。

そうだろうなぁ。
有澤さんは、因幡さんと小沢さんより少し低いくらいだけど、私よりはるかに背が高いし。
戸田さんと同じくらいかな。

いつの間にか隣に座っていた有澤さんをチラッと見ると、「何」と有澤さんに言われてしまったので、私は慌てて前を見た。

「あのっ・・。さっきはありがとう。助かりました」
「俺、歌いたくて歌っただけだし。やっぱ歌うとスカッとするなぁ」
「そうなの?」
「おうよ。今度カラオケ行こうぜ。“銀恋”デュエットしよう」
「うぅ、渋いね」
「練習練習。こういうのは慣れれば誰でもできるようになる」

ちょうどその頃、即席ステージでは倉本さんが歌っていた。
演歌歌手を目指していたと言うだけあって、ハスキーな歌声はとっても上手い!

歌い終わった倉本さんが演歌歌手ヨロシク、深々とお辞儀をすると、全員立ち上がって拍手喝采した。

・・・そうだよね。
時にはハメを外して「寄り道」したり「遊ぶ」ことも、人生には必要かもしれない。

私は拍手しながら、小声で「うん」と返事をした。


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