倦怠期です!
「じゃあ後は、ケンタでフライドチキン買う?」
「ダメダメ。ケンタのイブは、一年で一番混んでる日だから。行っても身動き取れないよ」
「ふーん」
「ホント、あんたは外の事情に疎いよねぇ」
「イベントとか流行には興味ないだけ。それよりお姉ちゃん、今年のイブは佐々木さんと二人で過ごさないの?」
「過ごすよ。幸司くんちでね。でもケーキは欲しいから、うちに取りに来てもいい?」

「なるほど」と思いながら、私は「いいよ」と言った。

「お母さんは?イブも仕事だよね?」
「うん。お母さんも職場の人たちと一緒に一杯飲むことになるだろうから、いつもより遅くなると思う」

あぁ、確か去年もそうだった!
ってことは・・・イブに予定が全然ないのは、私だけか。

今年も。

「じゃあ、とりあえずケーキだけは用意して、後はそれぞれご飯食べるってことで」とまとめたお姉ちゃんに、お母さんと私は「了解ー」と言った。

「ところで美香。あの人にはここ、知られてないよね?」
「知られてない。幸司くんもその点は大丈夫って言ってたよ」

私たちの引っ越し先をお父さんに知られないことは、お母さんとお姉ちゃんは重要事項だと思っている。
「だからうちとは方向が違う最寄り駅のカフェで会うことにした」とお姉ちゃんは言ってたし、うちの新しい電話番号も、お父さんには知らせてない、と言うより知られたくないから、今回お姉ちゃんは、会社近くの公衆電話からお父さんち(私たちも前住んでいたマンション)に電話をかけたという周到さだ。
よって、私たちの住所と電話番号をお父さんに教えるつもりは、今後もない。

「よかった」
「香世、あんたもあの人には知られないように気をつけなさいよ」
「気をつけるって・・・会うこともないのにどうやって・・・」

お母さんもお姉ちゃんも私も、この件はこれで終わりだと思っていたのに・・・今にして思えば、このセリフは予兆めいていた。


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