倦怠期です!
「お父さんの借金がなければ、今頃私は、コバちゃんちみたいな立派なお家に住んでたんだろうなぁ」
「コバちゃんちは豪邸なのか」
「豪邸っていうより、“立派な邸宅”って言葉のほうが合ってるかな。とにかく、庭付き一戸建てだよ。コバちゃんのお父さんは、中小企業の重役さんなんだって」
「おまえ、庭付き一戸建てに住みたいのか」
「うーん・・・別に。あ、有澤さん。何か飲む?」
「そーだなぁ。じゃ、コーヒーもらおうかな」
「はーい。あ!ねえねえ有澤さんっ。ついでにケーキ食べようよ!」
「晩メシまだ食ってないのに?」
「いいじゃん。お母さんの分は少し、後はお姉ちゃんと彼の佐々木さんの分を残しておけばいいからさ」
「なんか、胸やけしそうだが・・・たまにはいっか」
「年に一度のことだから。ねっ?」

ごはんの代わりにケーキをたくさん食べるって、一度でいいからしてみたかったんだよねぇ。
しかも石ノ森製菓堂のクリスマスケーキだし。

そこで私はハタと気がついた。

「有澤さん!」
「わっ、ビックリした。なんだよ急に」
「今日・・・これから予定ない、の?」
「は?あぁ、ないよ。なんで?」
「え・・・っと、イブだからそのぅ、ここでケーキ食べてもいいのかなって・・・」
「サンタの仕事は、さっき終わったしなぁ」という有澤さんのセリフに、私はブッとふき出した。

「マジでないよ。後はおまえとケーキ食うだけ。腹すかしといてよかった」
「有澤さんって、胸やけするとか言いながら、実は食べる気満々だよね」
「まーなっ。おまえこそ予定ないのか?」
「ないない!あるわけないでしょ」

と私は言いながら、有澤さんに椅子をすすめると、ケーキとコーヒーを出す準備をしに、キッチンへ行った。



「・・・おまえ、まだひとり人暮らしがしたいのか」
「うん。ひとりだから、ここよりもっと小さなアパートで十分なんだけどね。でもまた貯金はほとんどなくなっちゃったし。因幡さんも言ってたように、私のお給料の額じゃあ、ひとり暮らしは難しいよね。それにお姉ちゃんは、2・3年後には結婚するだろうから・・・」
「さっきの彼、えーっと・・佐々木さん?」
「たぶんね。可能性大。そうなったら、私がお母さんを養わないと」
「なんで」
「え?なんでって・・・だって私しかいないし。親の面倒見ることは、子どもの役目っていうか・・・」

大仰なことを言ってるなーと自分でも分かっているからか、恥ずかしくて手をもじもじさせながら言ってた私は、照れ隠しにケーキを一口食べた。でも・・・。

「・・うぅ。おなかいっぱい・・」
「俺も。ケーキ2つ一気に食ったの、生まれて初めてだー」
「思ったより食べれなかったね」
「そりゃそーだろ。腹減ってりゃいいってもんじゃないし」
「もう一杯コーヒー飲む?」
「うん。頼むわ」

おなかにたまっているケーキが、コーヒーの苦みで少しでも早く消化されればいいなー、なんて思いながら、私はまた台所へ行った。


とは言っても、ダイニングとキッチンは続きになっているので、ほんの数歩歩けばすむことだ。
これも狭い部屋故の利点。

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