倦怠期です!

16

「今度は有澤さんと中原君も入れて、4人で会おう」とコバちゃんに言われた私は、「うん!」と元気よく返事をすると、クラウンが見えなくなるまで見送った。



そしてアパートに帰った私は、パパッとお風呂に入って寝る準備を済ませてから、有澤さんに電話をした。

「よぅ。たぶんこれくらいの時間にかけてくると思った」と言った有澤さんに、私はさっき食べた飲茶のことを、あれこれしゃべった。

「今度そこ行こっか」
「・・・うん。えっとね、コバちゃんが彼の中原さんも一緒にね、4人で会おうって」
「お。そりゃええなぁ」

・・・電話越しに聞こえる、有澤さんの関西弁やクスッと笑う声を聞いた私は、それだけで胸がじぃんときて・・・。

幸せって思った。

「・・・仁(じん)」
「ん?」
「す・・・好き」

たった二文字の言葉なのに、すごく大切な重みを感じる。
有澤さんに気づかれないように泣き声を出さなかったけど、「やっと言ってくれたな。ありがとう」と言われて涙が止まらない私は、つい鼻をすすってしまった。

コバちゃんが言ったとおり、言わなきゃ分からないこともある。
そして有澤さんは、私の気持ちを知りたがっていたのかもしれない。

私は流されて有澤さんとエッチしたんじゃない。
有澤さんだから、この人だったら全て委ねて大丈夫と思った。
そして有澤さんと、友だち以上の関係を創りたいと強く思った。

他の誰でもない、有澤仁一郎と。

「俺もおまえのこと好きだよ」
「ぅ・・・ん」
「これから二人でいろんな経験積んで、楽しい思い出めっちゃ作っていこ」
「・・ん。うん」


以来私は、金曜の仕事終わりから日曜まで、有澤さんと一緒にすごすようになった。
金・土は泊まりで、日曜の夕方、名残惜しく帰る。
有澤さんちに、私が使ってるもの、たとえば歯ブラシとか、コンタクトレンズの保存液とか、コンタクトケースとかが、何気なく、そしてさりげなく増えていった。

仕事の時は「有澤さん」「すず」と呼び合い、彼と彼女の時は、「仁」「香世子」と名前で呼び合う。

会社の人たちに、私たちがつき合ってると「報告」してないし、社内でイチャイチャなんて絶対しないけど、因幡さんや戸田さん、小沢さんに仙崎さんあたりといった若手営業の人たちは気づいてるようだ。
でもそれならそれで別にいいし、彼らも私たちのことをあからさまに冷かしたり、なんてことしないし。

年末年始、福岡の実家に里帰りする有澤さんから「一緒に行く?」と誘われたけど、恐れ多くて断った。
それはちょっと大げさというか・・・まだ早いというか、そんな気がしたから。
有澤さんも「あ、そ」と言ってアッサリ引き下がったし。

でも「その代わり」と言って、クリスマスイブとクリスマスは、二人で過ごした。
・・・そういえば去年のイブも、仁と一緒にケーキ食べて、ずっとじゃないけど二人で過ごしたんだ、とその時気がついた。

あの時一人暮らしのこととか、親孝行のことの話を聞いて、いたく感激したんだよなぁ。
今年は有澤さん、イブの前日の祝日に、私のお母さんに挨拶してくれた。
去年のイブに会ったお姉ちゃんと彼の佐々木さんにも、そのとき会って。
「あらぁ」なんて言うお姉ちゃんたちとの束の間の再会を楽しでいた。




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