倦怠期です!

7 (仁一郎視点)

「手、離してよ」と言ってる嫁を無視して、俺はこいつの右手首あたりを掴んだまま、スーパーの出入口あたりまで歩いた。

「ねぇ、どこ行くのよ。私仕事中で・・あなたも仕事中じゃないの!」
「・・・俺は招かれざる客か」と言った俺の声が、かなりいじけて響く。

「はぁ?何言って・・ちょっとあなたっ。手、いた・・」とこいつに言われたことで、掴んでいた手に力を入れてしまったことに気づいた俺は、慌てて「すまん!」と謝ると、手を離した。

だが俺はすかさず嫁を壁に追いこんで、逃げ場を塞いだ。
ハッとした顔で俺を仰ぎ見る嫁の目が、少々怯えているように見える。

俺がおまえを傷つけるとでも思ってるのか?
ホンマ、20年経ってもこいつは全然分かってない。

どんだけ俺がおまえを好きかってことが!

「答えろ」
「な、なにを?」
「おまえはそんなに俺と一緒にいるところを、職場の人に見られるのが嫌なのか」
「な・・・違うわよ!」
「じゃあなんであのとき、“私が仕事してる時は、ここには来ないで”って言ったんだよ!」

仕事でたまたま近くまで来ていたし、むしょうに会いたくなって、こいつがいるスーパーへ顔を出したら、引きつった笑顔でサッサと俺を追い払いやがった。
挙句の果てには、家に帰った早々、「私が仕事してる時には来ないで」と禁止令まで出しやがった!

それが半年以上前の話だ。
あんときは、たまたま虫の居所が悪かったんだろう、こいつ、生理前か生理中だったかもしれんし。
と思い直して再び出向けば、また同じ応対しやがった。

おい。あれはマジやったんか!
てか俺、一応客だぞ?
なのにそんな対応してもええんか?

「答えろよ」
「そ、それは・・・・・・」
「沈黙長い!おまえが言うまで帰さんからな」
「うっ・・あの・・」と嫁は言うと、あたりをキョロキョロ見渡して、壁につけてる俺の手を持ち、人気の少ないところへ連れて行った。




「・・・それで、“明日は仕事だからやだって言ったのに、だんなにがっつかれて、あー腰痛い”って言うし、わざとなのか、それとも“がっつかれた”からなのか、歩き方はぎこちないし」
「ほー」と言った俺を嫁が睨みつけたが、何となくニヤけが止まらない。

「で、あなたがひょっこり現れた後、“有澤さんのだんなさんって、すごくカッコいい!”って・・・」
「そのとおりじゃん」
「そっ、そうだけど、それだけじゃなくて。“有澤さん、月一どころか週一くらいしてるんじゃないの?”とか、“あのだんなさんだったら、月一じゃあ満足できないでしょ”とかいろいろ言われて・・・。一応私本人もいるのに、そういう明け透けな会話されるのって、いい気分しないし。それに、真田さんや八幡さんの、あなたを見ていた目つきが嫌だったの」
「妬いてんだ」
「ちがうもんっ!」

こいつ、ムキになって、即否定した。
ってことは、妬いてんだな。
でも認めたくない、と。

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