倦怠期です!

8 (仁一郎視点) 

爆弾を投下されたような気がしたが、派手な爆発音はなく、代わりにさっき嫁が言った、「あなたのほうじゃないの!」というセリフが、俺たちの周囲で何度もこだましているような気がした。

シーンと静まり返っている中、俺は瞬きを何度もして、頭を何度か横にふった。

「お、おま・・一体・・・今、何て言った?俺が・・・この俺が、浮気してるだと!?」
「ちが・・・。もうしてないかもしれないけど・・・」
「“もうしてない”って過去形でも現在進行形でも、俺は一度も浮気したことないわっ!」
「嘘!」
「うそやない!」
「私、見たんだから!あなたが松坂さんと一緒に、ホテルの前で話してたとこ、見た・・・んだから・・・」
「あー・・・・・・待ち合わせ遅らせたあんときか」
「う・・・ん。うううぅ、や・・・」

手で顔を覆って泣き出した嫁を抱きしめようとしたら、思いっきり拒絶されてしまったが、俺は構わず抱きしめた。

「おまえ・・・それからずーっと俺が浮気してるって疑ってたのか?」と聞いたが、俺の腕の中で泣いてるこいつは返事をしない。

だが、こいつのことだから疑ってたんだよなぁ。
5ヶ月近く、ずっと。

俺はハァとため息をつくと、一言「アホ」と言った。

「俺は誰とも浮気したことないし、これからも浮気はせん。絶対」
「じゃ、なんで、松坂さ、んのなまえ・・出しただけで、そんな、うろたえるの・・ようぅ・・」
「それは・・・!」と言いよどむ俺に、「ほらやっぱり!」と嫁は言うと、俺の胸板を、グーでボカボカ叩き始めた。

そして叩きながら、「仁さんのバカ!嘘つき!もうあなたのことなんか嫌い!大嫌い!」と泣き叫ぶこいつの腕を掴むと、目を見て「俺、松坂さんとは浮気してない」ときっぱり言った。

「う・・・うぅ・・・」
「ただな、俺・・・こうなったら正直に言うけど。おまえとはあんまりできん。それでエロ動画見て、溜まったもんを抜いてるわけや」
「・・・・・・は?」

今の俺の発言で、途端に泣き止んだ嫁が、口をポカーンと開けた顔で俺を見た。
いくら恋愛初心者の嫁でも、俺の言わんとすることは分かったようで、幾分ホッとする。
・・・てか、ここまでハッキリ言えば分かるよな。


「おまえはするの好きじゃないみたいやし。俺だって無理強いさせたくない。でもまあその・・・実際してはいないが、AV女優の助けを借りてやな、最後までイってるってことは、厳密に言えば“浮気”になるかもしれん。おまえがそう思うなら俺は謝る。ごめん。すまん・・・」
「いやっ!いやそんな・・・あっ、と・・事情は分かったけど・・・でも松坂さんのこと、は?」
「・・・あの人、俺がよく見てるエロ動画に出演してる」
「・・・え?ええええっ!!そ、それは。じゃ、松坂さんって、え、AV・・・ていうか!あなた見たの!」
「見てない見てない!絶対見てない!!」

力強く否定することで、俺の真実はこいつに伝わったと信じたいが、こいつの顔には、なんとなーく疑惑が浮かんでいる。
しょうがなない。あの時のことを話そう。

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