10回目のキスの仕方

新しいこと、はじめます

* * *

「かんぱーいっ!」
「乾杯。」
「かーんぱーいっ!」
「かん、ぱい…。」

 ゴールデンウィーク最終日、美海、圭介、明季、洋一の4人で居酒屋に来ていた。美海以外の3人は生ビール、美海はグレープジュースだ。座席はというと、美海の隣に圭介、向かいには明季となっている。今回は左半身に緊張が走る。

「美海の初バイトに乾杯!お疲れ。」
「おー松下さん、初バイトなんだぁー。」
「職種は?」
「えっと、あの、近くの本屋です。」
「あぁ、あそこか。」
「あー浅井と松下さんの家って近いんだっけ?」
「近いというか、同じ?」
「はぁ!?同じって同棲…。」
「ちっ…ちが…。」
 
 アルコールを摂取していないのに美海の頬は爆発寸前に熱くて赤い。ここで冷静に割って入ったのは圭介だ。

「言い方を間違えた。同じアパート。同じ部屋ではない。」
「なぁーんだ、つまんねー。」
「洋一、このテの話題、美海は非対応。」
「うわーごめん。今のって嫌がらせ?」
「どうよ、美海?」
「えっと、だ、大丈夫です。ごめんなさい、私が上手に受け流せなくて…。」
「セクハラだから美海の分は洋一のおごりで!」
「まじかーい!」

 アルコールこそ苦手ではあるけれど、居酒屋自体が嫌いというわけではない。少人数であれば(なおかつ気心知れた仲であれば)それほど気負うこともないし、そこまで苦手意識を強くもたなくて済む。しかし今日は、微妙なメンツだ。嬉しくないわけではもちろんないけれど、圭介に対しても洋一に対しても、どうしたって緊張してしまう。

「バイト初日は何やったの?」
「タイムカードのこととか、接客の基本とか、レジとかかなぁ。」
「レジ!美海がレジに立つの?絶対行くからシフト教えて!」
「えぇ~!明季ちゃん、からかいに来るんでしょ?」
「それ以外に何があるの?」
「私は緊張してるのに!]

 あははと大きな声で洋一が笑い、美海の隣の圭介は口元を少しだけ緩めた。そんな姿を少し見つめて、美海も小さく笑った。
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