唯一の純愛
最後の言葉
私達は死の間際、または死を覚悟した瞬間、どんな言葉を発するのでしょうか。
例えばそれが予期せぬ死であり、尚且つ、苦しみのただ中にあったとして、遺される人達へ、どれほどの言葉を遺せるでしょう。

私には五年間連れ添った妻がいました。
妻と言っても、入籍もしておらず、法的には赤の他人です。
しかし、私達の間には、確かに家族の絆がありました。
他人から見ればそれは、家族ごっこだったのかも知れません。
しかし確かに、私達は家族でした。

人生において、五年という時間は、決して長いとは言えない時間です。
それでも、人が変わるには十分な時間ではないでしょうか。
少なくとも私は、妻と過ごした五年で、様々な事を学び、得る事ができました。

そんな妻が、最後に遺した言葉は、私への感謝の言葉でした。
ありがとう
ただそれだけを、何度も何度も。

薬で眠らされ、意識はなかったはずです。
それなのに、何度も何度も、消え入りそうな声で、何度も何度もありがとうと繰り返していました。

もし逆の立場だったら、同じ事が言えただろうか。
私は今でも悩んでいます。
苦しみの中で、それこそ命懸けで、妻に感謝の言葉を遺してやれただろうか。
答えの見つからない自問自答を繰り返しています。

私は今も、どうすれば妻の言葉に応えてやれるのか、解らずにいます。

妻のために何が出来るのか、解らずにいます。

ただ、妻の事を忘れない事、妻という人間がいた事を一人でも多くの人に知ってもらう事、それだけが今の私に出来る事だと思っています。

一人でも多くの人に妻の事を知ってもらい、一人でも多くの人が妻の死を悼んでくださる事を願います。


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