ふわふわ。

「行動しようと思いまして」


……行動?


「何かを行わなければ、何も変わりはしないそうですし」


ん?


あれ。

それって、何だか記憶に新しい言葉じゃない?


確か、それって、この間の残業中に……



「ちょうど、相手には彼氏らしきもいないとのことでしたし、飲み会には必ず参加されると事前情報もありましたし」

ん?

え。
あの。

それって、どういう意味で?


「事前情報……?」

「はい。実は、不参加表明しても強制的に参加させてみせると、同期に協力してもらいまして」

「え。あ、あの?」

「そう言った本人が、僕の姿に驚いていましたから、冗談半分だったのでしょうけれどね」

ひょいと背を屈める倉坂さんの視線が、私と同じ高さになる。


近すぎはしないけれど、決して遠くはない距離に、無表情ながらも整った倉坂さんの顔。



「あわよくば……を狙ったのですけれど」

「あ、あわよくば?」

「はい。あわよくば、貴女をお持ち帰りしようと思っていました」

「…………」



ちょ……


ちょっと。


ちょっと待って─────っ!!



どういう事。


えーと、どういう事も何も、そういう事!?


何がどーなって、そうなる?


「ですので、作戦は変更しました」


「へ、変更?」


「ええ」


倉坂さんは背筋を伸ばし、それからあたりをゆっくり見回してから、また私を見る。


「こう言っておけば、少しは意識してもらえるかと思いまして」

「…………」


す、するでしょうね。

ええ、しますとも。

しない方がおかしい。

しちゃいますよ!!


「まさか、ここまでお酒に強い人だとは思いませんでしたけれど」

「あ、ありがとうございます?」

「いえ。とても残念です」


サラリと変な事を言う男の人。



確かに、初めて会社の人ではなく、倉坂さんを“男性”として意識してしまった夜だった。








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