ふわふわ。

気分転換にコーヒーを淹れてこようか。
いや、この会社のコーヒーを飲むくらいなら、コンビニの淹れたてコーヒーの方が良いような気もするし……。
それに何よりお腹が空いた。

立ち上がりかけた時、

「上がりですか?」

急に声をかけられて目を丸くする。

顔を上げると、倉坂さんが椅子に寄りかかった状態でこちらを見ていた。

「……ぇえ。いえ。終わりそうもないので何か買ってこようかと」

話しかけられて、あからさまに無視する訳にもいかない。
何よりフロアには、私と彼しかいないのだから。

「倉坂さんは……何か、食べるものでも買ってきましょうか?」

そう聞くのは何もおかしな事ではない。
社会人にもなれば、自然と身に付く気遣いの部類だろう。

「ああ……そう言えば、腹に何か入れた方が良さそうですね」

「はぁ」

「よければ一緒に食べに行きませんか」

「はぁ?」

驚いた。
いや、驚愕したかもしれない。
鉄仮面の倉坂さんは、ランチはいつも独り。
同期の人が飲みに誘っても、誰かの歓迎会や送別会にも来ない。
会社主宰の催しも断る事で有名だ。

そんな彼が、自分を誘った。

これは、疲労が見せた幻?

「この時間も営業してる店を知ってます。山根さんは、パスタ系は大丈夫ですか?」

どうやら幻ではないらしい。
しかも、断られるとは思っていないようで、行くことになっている?

捲りあげたワイシャツの袖を直し、ボタンをかけている彼をボンヤリと眺めつつ
、瞬きを繰り返した。

いや、まぁ、断る事もないんだけどね。
うん。別に、断る事はない。
だけどさ、この人と食事って、一体何を話せばいいの?

「行きましょうか」

「あ、はい」

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