異常性欲の二人
→悪魔の囁き


あの頃の僕は酷く『飢え』ていた。


とは言っても、その飢えを満たすためにどうすれば良いのか。どんな方法を講じればいいのか、まったくわからなかった。


いや、わかるはずがなかった。なぜなら、その飢えの原因がいったいなにであるのかさえわからずにいたのだから。


たしかに原因はわからなかった。しかし僕がそれほどまでに飢えるようになったのは理由がある。その理由は、はっきりしている。


それまでまるで考えもしなかった『死』というものを強く意識するようになったからだ。


そう、あれは3年前だった。絵に描いたような真面目人間だった僕は、いつものようにそつなく仕事を終え。同僚と軽く10分ほど会話を交わしたあと、そそくさと車に乗り込み家路を急いだ。


数え切れないほど何度も往復した通勤ルート。僕は寄り道をすることもなく、いつものように県道から脇道に入り、いつもの山道を走った。


すべてがいつも通りだった。山道を越えて国道を横切り、制限速度の時速60キロで5分ほど走れば自宅に着くはずだった。


だが僕は、自宅にたどり着けなかった。


山道の下り坂の途中にある緩いカーブだった。決してわき見運転をしていたわけでも、スピードを出しすぎていたわけでもない。


でもなぜか僕は、ガードレールを突き破り、車もろとも5メートル下の崖に転落したんだ。


あれは3年前の12月25日。そう、ちょうど3年前だった。


僕は前日の『クリスマスイブ』に、4年と2ヶ月という長い月日を共にした妻『彩香』と正式に離婚したんだ。


きっと人生に絶望した『もう一人の自分が』衝動的にステアリングを切って、僕を殺そうとしたんだろう…


死ねばよかったのに……。

< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop