シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~

オサム君と里子

 その後、別荘へ戻って一休みしてから、里子の家まで向かった私たち。
 相変わらず、嫌な顔一つせずに、蓮藤さんは運転手を引き受けてくれた。
「それでは、お帰りの際には、またご連絡くださいね」
 そう言って会釈をすると、蓮藤さんは車を発進させ、去っていった。
 私はすぐにインターホンを押し、里子に来訪を知らせる。
 まもなく、里子は家の中へと私を迎え入れてくれた。

 待ち合わせの時刻から10分が経過した頃、インターホンが鳴った。
 オサム君かな。
 リビングでそのまま待たせてもらっていると、戻ってきた里子の後ろに、見知らぬ男性がいた。
「もしかして、雫ちゃん?」
「オサム君? お久しぶり!」
 久々に再会したオサム君は、まるで別人だった。
 最後に会ったのは7歳にもなっていない頃だったけど、こんなに体格がよかったイメージはないし。
 髪色は茶色がかっており、高級そうな腕時計をしていた。
 顔つきはイケメンと言えなくもない。
 想い出の中のオサム君と、一致する点は一つもなかった。
 まぁ、私だって、昔の写真を見ると別人だから、人のことは言えないけど。
 ……ってことは、ショウ君も今頃、別人みたいになってるのかな。
「うわ~! 綺麗になったね! 付き合わない?」
「へ?」
 オサム君って、こんなにチャラい人だったっけ。
 昔の記憶って、アテにならないのかな。
「ちょっと! 雫はお見合いのために、ここに帰ってきてるんだから、滅多なこと言わないでよ」
「えええ~! お見合いのために?!」
 オウム返しに答えるオサム君。
「昨日、ちゃんと説明したでしょ。はぁ~、人の話はちゃんと聞いてよね」
 呆れた様子の里子と一緒に、私は事情を説明した。
「そうだったのか~! そういえば、そんなことを昨日、里子が言ってたような、言ってなかったような……」
「言ってました! はっきりと!」
 半笑いで突っ込む里子に、「マジか」と答えるオサム君。
 なかなか、いいコンビかも。
 オサム君によると、本名は「常磐理(ときわ おさむ)」というらしい。
 苗字、初めて知った気がする。
 今までずっと「オサム君」としか呼んだことはないはずだし。
 ショウ君と同じく。
「しかし、大ショックだなぁ。ガキん頃、ショウと雫ちゃんがスーパーなラブラブっぷりを見せ付けてたから、黙って応援してたんだけど……気持ちを伝えとけばよかったよ。ずーっと、好きだったんだ」
「ええっ」
 新事実にびっくりする私。
 対照的に冷静な里子は、冷たく「時、既に遅し……だね」とポツリと言った。
「でも……でもさ。まだお見合いの段階なんでしょ? 破談になるかもじゃん」
 前に乗り出しながら、こんなことを言うオサム君。
「おい、こら。言っていいことと悪いことがあるでしょ! そもそも、そんなことを言うデリカシーのない男子は、雫だけじゃなく誰からも相手されません」
「す、すまん……」
 里子の言葉に、オサム君はシュンとなった。
 私は「どんまい」と言ったけど、フォローになってたかどうかは分からない。
 そこで、私は話を変えるため、ショウ君の事を聞いてみた。
「ショウか……。俺もガキの頃以来会ってないな」
 やはり、オサム君も知らないようだ。
「そういや、明日はまだこの島にいるってことだったよな。じゃあさ、明日の夏祭り、一緒にどう?」
 オサム君が誘ってくれた。
 嬉しい気持ちはあるけど、私は蓮藤さんと行きたくて……。
 答えに窮する私のために、里子が助け舟を出してくれた。
「だから~! お見合いのために帰ってきてるって、何度も言ってるでしょうが! もし万が一にも、あんたと雫が一緒に行くことになったら、その場合は私も参加しますよ。あんたが雫に変なちょっかいをかけないように」
「それでもいいから!」
 手を合わせるオサム君。
「必死だなぁ~」
「ああ、必死だとも! 里子がついてきても別にいいからさ! まぁ、考えといてよ。一緒に夏祭りを満喫したいだけだから。そういや、覚えてる? 俺たち三人とショウの、合わせて四人で夏祭りへ行ったこと。もちろん、子供だけじゃなくて、俺の親戚のおじさんが付き添ってくれてたけど」
「ああ、そんなこともあったね~」
 里子が遠い目をしている。
 私ももちろん覚えていた。
 そのときに、ショウ君からぬいぐるみと金魚をもらって……。
 忘れられない想い出。


 その後、趣味のことなど、他愛もないことへと話題は移っていった。
 里子が言ってたとおり、オサム君は今、この島で働いているらしい。
「これ、会社の場所。いつでも遊びに来てね」と言い、オサム君は名刺を渡してくれた。
 そこには「営業部 常磐理」とある。
 営業かぁ、なんとなく、今のオサム君にぴったりかも。
 そうした話で盛り上がった私たち。
 久々にこの三人で話せて、すごく楽しかった。
 ここに、ショウ君もいてくれたらなぁ……。
 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、お別れの時間となったため、私たちは再開の約束をしてから別れた。
 私が島にいる間に、もう一度だけ三人で会う約束をして。
 そして、私は蓮藤さんに連絡を取り、お迎えに来てもらい、里子の家を後にした。
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