……本当はすべて分かっていた。

鈴花が言っていたように、私は志信くんから逃げていたんだ。

年齢、世間体、人間的魅力の欠如。どれも言い訳に過ぎない。自分を正当化して、理性のある大人の“フリ”をしようとした。

一度でも認めてしまえば坂道を転がり落ちるように、堕ちていくのが目に見えていたからだ。

だからこそ……志信くんの気持ちを受け入れることが出来なかった。

私達は“カグヤ”と“カグヤ憑き”。

“カグヤ憑き”が求めるのは“カグヤ”だ。

橘の文様を胸に抱く女ならば相手が悪女であろうが犯罪者だろうが関係ない。

……彼は私自身を愛している訳ではない。

なんて滑稽なのだろう。

どんなに志信くんを好きになっても、彼が愛するのは“カグヤ”ただひとり。

手が届かない幻。近くて遠い、月までの距離。唇を重ね、肌を合わせても手に入れることが出来ない永遠の想い人。

(帰りたくないな……)

幸せがいくつも飛んで行ってしまいそうなくらい大きなため息をついて、歩道をとぼとぼと歩く。夕暮れはとっくの昔に過ぎ去って、星がチラチラと夜空に瞬いていた。

志信くんと一緒に見た草原の景色を思い出して、切なさが込み上げる。

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運命    年下 

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