「豊姫、お願い。姿を見せて……」

石碑の前に立って呼びかけるも、豊姫からの返事は一向になかった。

物言わぬ石碑は冬の寒さを感じさせるように、冷え冷えと私を見下ろしている。

私ははあっとため息をつくと、その場に蹲って膝を抱えた。

(もう会わないつもりなのかしら……)

手土産として持ってきた金平糖の瓶を石碑の前に供えると、カランと何とも悲しげな音がした。

石碑の前に並んだ金平糖の瓶の数が、これまで足を運んだ回数を示している。

豊姫を振り切って志信くんの元へ向かった日……豊姫が姿を消してから数ヵ月が経とうとしている。

季節は巡りに巡り、夏が終わり、秋が過ぎ、冬がやってきても、呼びかけに応えることはなかった。

以前も同じようなことがあったが、あの時とは状況が違う。

……私は豊姫を捨て、志信くんを選んだ。

なんてひどいことをしてしまったんだろう。

後悔はしていないけれど、ふたりで過ごす日々を思い出して寂しさを感じるのもまた事実だった。

「また来るね」

今日も姿を現さなかったことに落胆しながら踵を返す。

志信くんと豊姫。

どちらも諦められない私は欲深いのだろうか。

この作品のキーワード
運命    年下 

感想ノートに書き込むためには会員登録及びログインが必要です。