愛結の隣に悠ちゃん

記憶とは違う話 ―本当のこと―



悠人は母には見えていない存在。

「ママ……本当に見えないの?」

「えぇ……でも、暖かいから……悠人がいるのね」

愛結からは母が悠人に抱きついているようにちゃんと見える。

「母さん……」

母に抱き締められている、初めてのことに悠人は感情が高ぶり涙をぽろぽろと流し始めた。

「愛結、悠人はね……愛結をかばって……そしたらっ……トラックにっ……」

「え……?」

愛結に現実が突き刺さる。

愛結には、事故の記憶がほとんどない。
自分が轢かれそうになったということまでしか分からないのだ。

「悠ちゃん……ここにいるもんっ。どうしてっ!!どうしてそんなことっ……」

愛結が目に涙をためて母に訴える。

「ちゃんと聞きなさい!!悠人は……もう、この世にいないのよっ……目を覚ましなさいっ」

母の気持ちが高ぶり、愛結に怒鳴る。
初めて怒鳴られたことと、悠人の存在を否定されたことに涙を流し始め、駆け出してしまった。

「愛結っ!!」

悠人が慌てて愛結のあとを追いかける。
愛結は靴を履き、玄関を飛び出す。

向かったのは1つ目の神社であった。

段差で愛結が豪快に転ぶ。

「愛結っ!!血が出てる……」

悠人が心配そうな面持ちで言い愛結に近づけば、愛結はぎゅっと悠人に抱きつく。

「悠ちゃんはここにいるもんっ……」

母に否定されたことが悔しくて悠人に抱きついて悠人なら分かってくれるだろうということを信じて泣き崩れた。

しかし、悠人は愛結をゆっくりと自分から離す。

「愛結……聞いてほしい話があるんだ」

真剣な眼差しで愛結を見つめて言う。
愛結には、きちんと話しておかなければいけないという悠人の思いからだ。


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