婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「毎週帰って来てよね」しっかり者の空良が追い出される姉を気遣い優しい言葉を掛けてくれる。

「うん、帰ってきたら空良のお部屋に泊めてね」

「やっぱり帰ってくるのは月一回で大丈夫」

空良にやんわりと拒否された。

「もううちには帰る場所がないんだから葛城さんとこで上手くやるのよー」

ママも随分アッサリしたもんだ。

家族にこれ以上ないほど清々しく見送られ、私は少し泣きそうになりながら軽トラの助手席に乗り込んだ。


そして、車に揺られること3時間―――

緑に囲まれた豪邸へと辿りつく。

本当は1時間ほどで到着する距離だけど、パパが散々道を間違えてその3倍時間がかかった。

途中、苛立った匠さんから何度も電話があってこっちは気が気でなかった。

「はぁー!すっごいお屋敷だなぁ!遥がこんな立派な家に嫁ぐとは」

パパはキョロキョロ辺りを見回しながらハシャイだ様子で言う。

噴水の前を通り越して、ガレージに車を停めると、匠さんが玄関から姿を現した。

速足でこちらに向かって来る様子を見ると、相当イラついていたようだ。

「お義父さん、ご苦労さまです」

車から降りて来た私と父にニッコリと他所行きの笑顔を向ける。

「いやー匠くん、遅くなってすまんなぁ!途中で道に迷ってしまって」

パパは人の良さそうな笑みを浮かべて頭を掻く。

匠さんは「それはそれはごくろうさまです」なんて穏やかに言ってるけど、どこをどうしたらここまで道に迷うんだ?という心のツッコミが聞こえてくるようだ。

「中に入ってゆっくりお茶でも召し上がっていってください」私達を葛城邸へと案内する。

パパは吹き抜けになっている玄関ホールを見上げると「ほぉー」とか「へへぇー」とか、しきりに感嘆の声を漏らす。

「いらっしゃいませ、小森様。ご無沙汰しております」執事の轟さんが、丁重にお出迎えをしてくれると、パパは恐縮して何度も頭を下げていた。

本日葛城夫妻は海外出張中で不在らしい。妹のアキコさんも予定が入っており、家を空けているようだ。
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