【結婚を申し込まれた日のこと】



* *



「神さまのお嫁さん役?……あたしがですか??」



はじめてその話を聞かされたのは、『神婚』を執り行う一ヶ月ほど前。

生まれてから中学生までの間暮らしていた東京から、お父さんの出身地である豊海村に引っ越してきたばかりのときだった。






お母さんは陶芸家、お父さんは彫金作家。

あたしはそんな両親そろって芸術家という、ユニークでちょっと変わった家庭に生まれた。


東京にある芸術大学で知り合い結婚したお父さんたちは、そのまま東京で作家活動をしていたけれど、東京育ちのくせにと都会が苦手なお母さんは、ずっと活動拠点をどこか自然ゆたかな田舎に移したがっていた。


そんなお母さんは、ことあるごとにお父さんに「あなたの地元に帰りましょうよ」と誘っていた。


海がとってもきれいな豊海村はお父さんが生まれ育った場所だけど、都会育ちのお母さんのほうがすっかり気に入ってしまっていたのだ。

お母さんは、うつくしい豊海の海を見ていると次々に作品のインスピレーションが湧いてくるらしかった。


お母さんはずっと豊海村に来ることを望んでいたけど、一度地元を出て行ったお父さんは「親父たちもいなくなったのに、今更豊海に帰るのも体裁が悪い」ってだいぶ渋ってた。

けど喘息になりやすいあたしが一度中学のときに症状を悪化させたのをきっかけに、「ののかのために、空気のきれいな場所で暮らした方がいいのかもしれない」と言い出すようになって。

あたしが「どうせ田舎に行くなら、あたしも豊海村に行きたい」と言って都内から引っ越すことを嫌がらなかったのもあって、ついにあたしが高校生に進学するタイミングで一家で豊海村に移り住むことになったのだ。


中学のとき仲のよかった友達と離ればなれになるのはさびしかったけど、豊海村に来るのを、あたしはお母さん以上に楽しみにしていた。


相変わらず豊海の海はどこで見るよりもいちばんきれいな海だったし。

それに豊海村に来ると、いまもすぐそばでだいすきだったおじいちゃんとおばあちゃんが、あたしのことを見守ってくれているような、ふしぎとそんなあたたかい気持ちになれたから。


そしてなにより。


初恋のひとがいる土地っていうことに、自分でも驚くくらい惹かれてしまっていた。



(豊海村で暮らしていたら、いつかはあの男の子と会えるかもしれない)



そんなことを願っていたあたしに、思ってもみなかったことが起きた。




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