【蛍火と新床】



鏡の中から出てきた、どろどろとした粘度のある液体のようなものがあたしを追ってくるから、どこへ逃げるかじっくり考えてる余裕もなかった。

あたしはお風呂場からいちばん近くにあった階段を裸のまま駆け上がっていく。この階段も何度も曲がりくねって枝分かれしていた。どこへ進むのが正解なのかわからないまま、ほとんど視界の利かない中必死に足を動かす。


そしてやっと階段を抜けてどこかの廊下に出てきたかと思ったときだった。


急ぎ足だったあたしはなにか弾力のあるやわらかいものに思いきりぶつかって、体を押し返された。その場に尻もちをつくと、やわらかい『なにか』はあたしに言ってきた。



『おや人の子。道理で美味そうな匂いがするわけだ』



目を凝らすと、そこにはあたしと同じく裸の女の人が立っていた。ただしその下半身は、魚のようにうろこが光り、蛇のようにぬめった長い体がとぐろを巻いていた。

神さまなのか妖怪なのかわからないけれど、人間ではないことだけは確かだ。



『顔をみせてみい』



蛇女はにゅっと体を伸ばしてあたしの顔を覗き込んでくると、うれしそうに言った。



『ほお。これはこれはなんと清らかな上物。ヌシ様のお帰りをお待ちしているところにこんな娘が転がり込んでくるとは。……見れば見るほど旨そうな娘よ。こっそり食ろうてもバレはしまい』



蛇女は上機嫌にニタニタ笑う。それからあたしを頭から丸ごと飲み込もうとするかのように、尋常じゃないくらい口を大きく開けた。

蛇女の口内からは腐ったようなたまらない異臭がして、鋭い山形の歯がたくさん並んでいるのも見える。その歯に噛み砕かれるのかと思うと、恐怖のあまり逃げようにも足が震えすぎて力が入らない。


(もうだめだ………ッ)


そう諦めかかったとき。


いきなりあたしの右手の中が火傷しそうなほどにカッと熱くなって、目も開けていられなくなるくらい強い光が弾けた。


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