それから数日。


「桜井ー、いい記事が出来そうか?」

「分かりません」


編集長に開口一番そう聞かれても



「桜井、伊達ってどういう人だった?やっぱり、マスコミ嫌いなのか」

「わかんない」


そう中野に探りを入れられても



「先輩~、伊達さんの写メ撮ってきて下さいよぉ。雑誌に載ってなくてー」

「あんた彼氏いるでしょ。だめ」


なんて隣の席の綾子にからかわれても
アキは、彼らに応えるような返答をしなかった。

いや、返答が出来なかったというのが正しい。




今までずっとベールに包まれていた画家。

このミステリアスな材料を、文字にどう表現すれば読者の好奇心が満足するだろう?
読者は伊達圭介の何が知りたいのか?という、駆け出しの編集者として尤もな葛藤はもちろんだったが



それよりも、彼の掴みどころの無さが何よりも彼女を悩ませていた。

というのも、二回の顔合わせを経ても『伊達圭介』という人間性が一向に掴めなかったからだ。




…たいてい、取材と称してその人に二回も会えば

「ああ、この人にはおべっかを使えばいい」とか

「余計なことはしゃべらないほうがいい」とか、そんな対処がおのずと分かってくるものなのに。


紳士的なのか?と思えば、いかにも「笑顔を合わせてますよ」という風に振る舞い、
ドライなのか?と思えば、コーヒーが苦手と見たアキのために紅茶に変更し、わざわざタバコもベランダで吸ったり…。


編集部員に、次々と「伊達圭介はどういう人だったの?」と聞かれても、アキは「分からない」と答えるほかなかった。






い。


この五文字が、最も的確で最も端的に、彼という人間を表現しているからだ。


そして、更に彼女を困惑させていたのが、伊達が「人と話す必要がない」という理由で受注していたイラストの類であった。


取材初日、彼女は編集部に戻って早々に資料室へ駆け込んだ。

彼が手がけたというイラストやデザインを見て、勉強し、「すてきなデザインでしたねー」なんて、次の取材への潤滑剤にするためだ。



しかし出てきたのは、一枚一枚全て、タッチや色遣いが違う作品だった。

彼女はこれに愕然とした。



たいていはどんな人間にも、描き方の癖やタッチが違うもので
仕事を頼む側は、その味わいを少しでも紙の上に反映して欲しくて、そのタッチが欲しくて、仕事を頼むものだ。


なのに、伊達が描いたというイラストやデザインは、アキが画集で目にしていたものとまるで違う。



ほんわか鉛筆タッチ、というのもあれば、コンピューターグラフィックデザイン的なものもある。

もし言われなければ、一人の人間が描いた作品だとは気付かないだろう。

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