この恋、永遠に。

ギフトカード

 五十階の窓から見ていた雨はいつの間にか雪に変わっていた。美緒の言っていたとおりだ。俺は今朝のことを思い出して笑みを零す。

 今朝、出掛ける俺に彼女が言った。今日の雨は夜には雪になるかもしれないと。ニュースでホワイトクリスマスになりそうだと言っていたと彼女は笑った。寒くなるから暖かくしてくださいね、と少し屈んだ俺に小さい彼女は背伸びをしてマフラーを巻いてくれた。

 今日は何があっても早く帰らなければならない。二十四日のクリスマスイブ。恋人たちの一大イベントだ。思えば今まで俺には関係のないイベントだったが、今年は特別だ。俺の大事な婚約者、美緒と一緒に過ごす初めてのクリスマスなのだから。

 昨夜、ドレスをプレゼントしたとき、彼女は子供のようにはしゃいで喜んでいた。あの事件以降、ずっと体調を崩していた彼女だったが、昨夜だけはまるで昔の彼女に戻ったようだった。俺はそんな彼女を見て幸せを感じた。彼女のあの笑顔を俺がこの手で守りたい。この先ずっと。



 今日中に回さなければならない重要案件を全て終わらせた俺は、デスクの上で残りの書類を束にすると、トントン、と軽く角を整え茶封筒に入れた。残りは美緒とのデートの後でもいい。
 俺は立ち上がり、彼女を迎えに行くため帰宅の準備をする。雪で道路が渋滞するだろう。急がなければ。帰り支度を済ませた俺は、クローゼットからコートを取り出した。コートを着ながら窓の外を眺める。

 これは積もりそうだ。明日の朝起きる頃には一面銀世界に違いない。俺は彼女と迎える明日の朝に思いを馳せた。
 その時、ノックもせずに部屋のドアが向こうから勢いよく開いた。
 沢口だろう。ノックもなしに入ってくるなんて珍しい。俺は窓の外に視線をやったまま言った。

「悪いが沢口、今日は終わりだ。重要なのは済ませておいたから残りは……」

「柊二!」

 沢口が俺の言葉を遮って大声で俺を呼んだ。俺の“名前”を。
 俺は振り返った。俺の出来る秘書はいつも完璧だ。仕事中は俺のことを名前で呼ばない。

「どうしたんだ?何をそんなに……」

 振り向いた俺は沢口が開け放ったままにしてあったドアの向こうで、重役受付の女子社員がおずおずと顔を覗かせているのに気づいた。
 何か話があるようだ。

「何か用か?」

 俺は彼女にそっけなく聞く。孝のように愛想を振りまくのは御免だ。
 彼女は小走りにこちらにやってくると、小さな封筒を差し出した。

「失礼します。専務に預かりものです」

 小花がプリントされた可愛らしい封筒だ。いかにも女の子が好きそうな…そう、例えば美緒のような。

「実はそれ、三十分前に一階の受付で預かっていたそうで…」

 彼女がまだ話を続けようとする。
 だが俺は血相を変えた沢口にグイ、と肩を引き寄せられた。

「そんなことはどうでもいい!柊二、今すぐ…九条総合病院に行くんだ!」
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