この恋、永遠に。

別離

 季節が変わり、随分暖かくなった。私も何とか一人で車椅子に乗れるようになり、柊二さんも会社に出社するようになった。

 柊二さんは相変わらず過保護で、ベッドから車椅子に移るときも、私一人で平気だと言っても彼は聞き入れてくれない。必ず私を抱き上げて車椅子に乗せるのだ。「俺が美緒に触れたいからだよ」と言って彼は笑うけれど、本当は私の動かない足を見るのがつらいのかもしれない。
 だから彼のためにもリハビリを頑張ろうと思う。早く良くなって、彼の本当の笑顔を取り戻したい。

 まだ薄暗い病室で目覚めた私は枕元の時計を見た。六時だ。もう暫くすると看護師さんが検温にやってくる。そして柊二さんもそろそろ起きてくる頃だ。彼は今もここの洋室で寝泊りしている。

 彼にはあんなに豪華な自宅マンションがあるのに、着替えを取りに戻るくらいしか使っていない。ここは入室が管理されているし、看護師の水内さんとは私と歳が近くて仲良くしているし、一人でも平気だと何度も彼には伝えているが、彼は頑として首を縦に振らない。ここから会社に出勤し、ここへ帰宅するのだ。
 勿論、彼が傍にいてくれることは嬉しいし、幸せだ。けれどたまに、彼の重荷になっているんじゃないかと胸が苦しくなるのも事実なのだ。

「美緒ちゃんの彼は本当に過保護よね」

 朝の検温に来た看護師の水内さんが、私に体温計を渡しながらてきぱきと血圧を測る準備をしている。柊二さんはシャワールームだ。
 水内さんは柊二さんが私を甘やかすたび、いつもそう言って彼をからかう。柊二さんはどうやらそれが嫌なようで、彼女のことは苦手らしい。私が彼女と仲良く話しているのを、複雑な表情で眺めているから。
 でも私は彼女が柊二さんのことをあれこれ言うことは嫌じゃない。むしろ少し嬉しかったりする。だって彼女は必ず最後に「あんな彼がいるんだから美緒ちゃんは幸せね」と微笑んでくれるから。柊二さんを褒められると私はとても嬉しくて満たされた気持ちになれる。

「そのエンゲージリングだって、きっと彼が選んでくれたんでしょう?」

 水内さんが私の左手薬指を見ながら血圧を測った。数値を書き込んでいる。私が頷くと、やっぱりね、と彼女は笑った。

「その指輪一個で豪邸の一つや二つ、簡単に建てられちゃうんじゃないかしら」

「え!」

「あら、知らなかったの?」

 水内さんが驚いた顔をする。けれど驚いたのは私の方だ。この指輪が桁違いに高価なものであることは分かっていたけれど、まさかそんな規模だとは思ってもみなかった。


< 118 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop