この恋、永遠に。
 チラリと時計を確認して、俺は立ち上がった。上着を羽織ると、鞄を掴む。
 秘書に車を用意するよう指示しながら、部屋を出た。孝も秘書や重役フロアの受付に軽い挨拶をしながら俺の後についてくる。
 女たちが色めき立っているのがよく分かった。

 まったく、こいつは愛想がよすぎる。手を出すつもりなどないくせに、そんな素振りを見せたら女が勘違いするに決まっている。

「お前、いい加減そういうのやめろよ」

 エレベーターが軽やかな音とともに到着し、中に滑り込むと俺は孝を窘めた。

「ん?そういうのって?」

「分かっているんだろ?お前が来るとうちの女子社員が仕事にならない」

 ウンザリしてエレベーターの階数表示を仰ぐ。
 最上階である五十二階から四十八階までしか表示されていないボタンはそれより下の階はノンストップで降りて行く。
 これは重役専用エレベーターだ。

「分かっていないのは柊二だろ?」

 シンと静まり返るエレベーターに孝の笑い声が響いた。

「何が」

 突然理由も分からず笑い出す友人に俺はいささか不機嫌になる。取り繕う必要もないので、仏頂面のまま彼を振り返った。

「だから、お前のところの女子社員が仕事にならないのは俺のせいじゃないってこと」

「意味が分からないな」

 案の定、俺の仏頂面を意に解することもなく、孝は可笑しそうに笑ったままだ。
 そのまま俺の肩に腕を回してきた。あまり身長が変わらないから、こんなことも容易く出来る。まったく、暑苦しい。

「お前に特定の女ができれば、そうだな…結婚までいかなくても、せめて婚約ぐらいすれば、この会社の女子社員も仕事がはかどると思うよ」

「そういうことか」

 俺は孝が妻のいる身で他の女に愛想を振りまいていることを窘めたつもりだったのだが。
 結局行き着く先は俺に相手がいないという話になる。

「それならそのうち何とかするよ」

 諦めたように深い溜息を吐いたところでエレベーターが一階に到着した。

「お、やっぱり昨日の子、モノにしちゃったの?」

「…そういう言い方もやめろ」
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