この恋、永遠に。

二度目のプロポーズ

「美緒、支度できたの?」

「うん、あと少し。あ、バッグ!」

「ほら、慌てなくていいから。お母さん玄関で待ってるからゆっくり来なさい」

 リビングから大きな声でそう言った母が玄関の方へと歩いて行く音がする。私は慌ててひっくり返らないよう気をつけながら、新しく自分の部屋となった一階の洋室にバッグを取りに戻ると、車椅子を動かした。

 大学進学で上京してから五年。孝くんに空港まで送ってもらった私は実家へと帰ってきた。
 柊二さんの元を去ってから既に半年が過ぎた。彼はどうしているだろうか。
 ことあるごとに彼を思い出しては、あの日、自ら彼の手を離したことを後悔する日々だ。けれど、これでよかったのだと自分に言い聞かせ、この半年を過ごしてきた。
 彼は今でも私の心の奥深くに存在し、私は一生、彼のことを忘れることなどできないだろう。でも、それでいい。この地球に存在する何十億という人の中で、これ程までに恋焦がれることができるたった一人に巡り会えた奇跡に、感謝しなければならない。

 玄関で一度車椅子から降りた私は、母が外に下ろしてくれたそれに再び乗る。さすがに私を乗せた車椅子ごと、母が持ち上げるのは無理だからだ。

 柊二さんのマンションのように完全バリアフリーではないのがつらいところだ。とはいえ、両親は私のために出来る限りのことをしてくれた。車も、助手席側のリヤシートに車椅子ごと乗り降りが可能な特別仕様車に買い換えてくれたし、部屋も、元は二階の南向きの部屋が私の自室だったけれど、一階の応接室を私用に用意してくれた。バス・トイレに手すりもある。

 両親は突然帰ると言い出した私を、何も言わずに迎えてくれた。きっと私以上に心を痛めているのだろうけれど、いつも明るく振舞ってくれる。
 そんな両親を見ていると、私も悲観しないで前向きに出来ることを頑張ろうと思い、医療事務の資格を取った。今はここから徒歩数分の薬局で働いている。

 今日はこれから仕事ではなくリハビリだ。左足は動かないけれど、ずっと車椅子生活なのでリハビリを続けないと右足まで固くなってしまうのだ。

 私は母に乗せてもらった車の窓から流れる景色を眺めた。
 川沿いに来ると、満開の桜が私の目を楽しませてくれる。美しいものを見て感動できる幸せを噛み締めた。

 ちょうど一年前、私はつらい告知を受けた。目の前が真っ暗になったのを覚えている。こうなった経緯を思って後悔もした。けれどそれも運命なのだ。誰を恨んでも仕方がない。

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