この恋、永遠に。
「恋人なんて…俺には煩わしいだけだな」

 窓らしい窓がないこのバーの、どこを見るともなしに遠くに視線を投げると、俺はネクタイの結び目を少し緩めた。

 自分で言うのも何だが、俺は女に不自由した事がない。
 思春期に入ってから今まで、女の事で悩んだことなど一度もなく、欲しいと思えば手に入ったし、わざわざ面倒な付き合いをする必要もなく、欲望は満たされてきた。
 俺はそれで充分満足している。今までも、そしてこれからも。

「でも、物は考えようだぞ」

 孝がソファの肘掛に肘をつき、そこに頭を預けて白い歯を見せた。一体何を企んでいるんだ?

「お前に恋人を作る気がないのも、お見合いをして、結婚する気がないのも分かっている。だが、お祖母様は納得しない。お前がこのままじゃ、これからも幾つかの見合い話を持ってくるだろう」

 確かに孝の言う通りだ。それが分かっているからこそ、今までは素直に見合いをこなし、その度に適当な理由を付けて断ってきたのだ。何とかしたいと思ってはいるが、妙案などない。

「そうだろうな」
 ウンザリだ、とでも言うように手を振る。

「そこで、だ。俺は考えたんだが、お前が恋人を作れば、お祖母様もこれ以上とやかく言ってはこないと思うんだ」

 全くこいつは。本当に分かっているのか?

「お前、さっき自分が言っていたことをもう忘れたのか?俺に恋人を作る気がないことを、分かっていると言わなかったか?女は欲望を満たすだけ、後腐れない一夜の関係で充分だ。恋人なんて作る気は更々ない」

 呆れた笑い声と共に孝の言葉を一蹴する。
 だが、孝は口角を上げたままだった。

「ああ、分かっている。何も本当の恋人を作れとは言っていない。それらしく振る舞えそうな子を恋人にあてがえばいいのさ」

 突然何を言いだすかと思えば…。

「誰かに恋人の演技でも頼めというのか?」

 俺の質問に孝は首を左右に振った。

「いや。それだとお祖母様のことだ、すぐに感付きそうだ」

「じゃあどうするんだよ」

 孝の勿体ぶったような言い方に再び苛ついてくる。

「なるべく接点のなさそうな、まだ結婚なんて考えなさそうな、大人しい女を恋人に選べばいいんだよ」

「理由は?」

「女は社会人になって少し経つと結婚を意識し始める。とくにお前のような優良物件は狙われ易い」

 孝の言い回しに覚えがある俺は苦笑した。
 一流企業の跡取り息子で専務の肩書きを持つ俺は女子社員から常に狙われているようなものだ。将来は社長の座を約束されているのだ。皆、玉の輿狙いで近づいてくる。
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