この恋、永遠に。

独占欲

 震える美緒の唇は柔らかく、甘い果実のようだった。
 重ねるだけのキスでこんなにも昂ったのは初めてかもしれない。
 もう何度となく感じている、美緒を押し倒したくなる衝動を懸命に堪えた俺は、彼女を促し、早々に部屋を出た。
 このまま部屋に二人でいたら、俺の理性をコントロールする自信がなかったのだ。

 マンションのエレベーターに乗り込み、地下駐車場へと向かう。
 車の助手席に美緒を乗せ、俺はハンドルを握った。
 先ほど美緒がシャワーを浴びている間に予約した、イタリアンの店へと車を走らせる。
 緊張した様子で隣に座る彼女は、頬をピンク色に染め両手を膝の上で握りしめたまま、黙って流れる景色を見ていた。

 今朝飲ませた薬が効いたのだろう。二日酔いで蒼白かった顔色は、すっかり良くなっている。
 俺は昨日のことを思い出していた。

 昨夜、やっと仕事に区切りがついた俺は、美緒に電話をかけた。
 ここ数日は寝る暇もない程忙しかったから、久しぶりに美緒の声が聞けると思って少し浮かれていたのかもしれない。
 だから彼女の電話から聞こえてきた声が彼女のものじゃなかった事実に俺は思いの外動揺した。

「君は?」

 電話の向こうの相手に俺は鋭く問いかけた。

『神田です』

 …ああ、アイツか。
 俺はすぐに彼のことが分かった。美緒に気がある、美緒の大学の後輩だ。

 美緒は全く気づいていないようだったが、俺にはすぐに分かった。彼は間違いなく、美緒に好意を寄せている。それは彼の双子の姉―――萌と言ったか―――彼女が美緒に寄せる好意とは明らかに違う。男が女に焦がれるそれだ。

「どうして君が彼女の携帯に?美緒は何処にいるんだ?」

 動揺する自分を悟られまいと、努めて冷静に問いただす。我ながらどうかしている。

『美緒…先輩は……』

『ねえ、晃、美緒先輩、寝ちゃったよ』

 不意に電話の向こうで別の声がした。

『ちょっと待てって』

 彼がその人物を窘めているのが分かる。
 この前会った双子の姉の方だろう。
 この男と美緒が二人きりじゃなかったという事実に俺は安堵し、聞き取られないようそっと息を吐いた。

「君、晃くんと言ったかな?聞こえたよ。美緒は寝てしまったらしいね。彼女を迎えに行くから場所を教えてくれないか」

『…別に、大丈夫です。美緒先輩は俺が送って行くって約束しましたから』
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