この恋、永遠に。

誰も知らない社内恋愛

 郵便物が詰め込まれた青いプラスチックのケースを五つ重ねて台車に乗せると、エレベーターへと向かう。まず最初に向かうのは三階の営業部だ。動きの悪い台車の扱いにもだいぶ慣れ、同時に運べるケースの数も増えた。
 一般用のエレベーターに乗り込み、三階の行き先ボタンを押す。閉じるボタンを押そうとしたところで、慌てて走ってくる人が見えた。

「待って!」

 慌てて開くボタンを押し、エレベーターに駆け込んできた人物を見上げる。

「ありがとう」

 そう言って陽だまりのような笑顔を見せたのは、営業部の高科さんだった。さすが営業部のエースと言ったところだろうか。高科さんの笑顔には人を惹きつける魅力がある。女子社員に人気があるのも分かる気がした。

「お疲れさまです。今日は直行だったんですか?」

 三階のボタンを押し、エレベーターの扉が閉まる。階数表示を見上げながら聞いてみた。

「うん。丁度決まりそうな商談があるんだ」

「そうなんですか、忙しそうですね。もしかしてこの前話してくれた件ですか?」

「うーん、多分違うかな。一つの案件だけを抱えているわけじゃないからね」

 確かこの前、高科さんに会ったときも、決まりそうな商談があると言っていた。でも今日のは別の仕事らしい。毎月トップの営業成績を収めるくらいだから、同時にいくつもの契約を取って来るのが当たり前なのだろう。

 高科さんの所属する営業部第三営業課がどんな案件を扱っているのかは詳しく知らないが、主にリゾート地の商品開発・調達に関係していると聞いたことがある。所属するところによって全く別物を取り扱っている会社であるから、私のような末端の人間が会社の全容を把握するのはとても難しい。

「渡辺さんはまだ時間ある?」

 すぐに三階に到着したエレベーターのドアを高科さんが開けてくれていたので、先に台車を押してエレベーターから降りると、彼がリフレッシュコーナーの方を指した。

「休憩していかない?」

 人のいい笑顔を浮かべ、爽やかに誘う彼はきっといつもこうなのだろう。私だけが特別だと思わせないような安心感があって、気軽に誘いに乗ることができる。もっとも、行き先は会社の自販機が置いてある休憩フロアなのだから、身構える必要もないのだけれど。

「はい」

 にっこり笑って快く承諾する。台車をリフレッシュコーナーの自販機の横に置くと、ポケットから小銭入れを出した。

「いいよ、そんなの。渡辺さんは何を飲む?」

「え、でも……」

 自販機に百円を投入した高科さんにオーダーを聞かれた。奢ってくれるらしい。
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