まだ水曜日だというのに、私は大学時代の後輩に誘われて、自宅の駅から程近いバーに来ていた。
 明日も仕事だから、と断ればいいのにそうすることが出来ず、気づけばもう間も無く終電の時間だ。

 私以外のメンバーはまだ全員学生だからか、皆盛り上がって終電を気にする素振りもない。
 私もここから一人暮らしをしているアパートまでは徒歩圏内だから、終電を気にする必要はないのだけれど、いかんせん私はれっきとした社会人だ。
 どんなに遅く帰宅しても、明日も朝早く出勤しなければならない。

 そろそろ帰りたい、の一言が言えず、隣に座る後輩からの過剰なスキンシップに困惑していた。

「美緒先輩、飲まないんですか?」

 私の隣に座る後輩の晃くんが、少し酔っているのか馴れ馴れしく肩を組んできた。
 彼、神田晃とは大学時代、同じスキーサークルに所属していた。

 スキーサークルと言っても、私は全く滑れない。何となく流されて入ったはいいけれど、結局上達せずに卒業するはめになってしまったのだ。我ながら情けないけれど。

 彼は私より一つ年下で、私の後輩になる。
 今日はそのサークルの集まりで、本来なら私は卒業してここにいるべき人間ではないのだけれど、同じく後輩の神田萌に誘われて断ることが出来ず、参加する羽目になっている。晃くんと萌ちゃんは双子で、私はどういう訳か、この双子にやたらと懐かれていた。

「ちょっと、晃!美緒先輩に馴れ馴れしくしすぎ!離れなさいよ!」

 萌ちゃんが目を吊り上げて晃くんを睨みつける。
 彼女は私のことをとても先輩扱いしてくれるけれど、私は全然そうは思わない。
 正直言って、こうして他人に流されているだけの私より、自分の意見がちゃんと言える萌ちゃんの方がずっと大人だと思うからだ。

「萌うるさい。そんな目くじら立ててばっかいるからモテないんだよ」

「な、何ですって?私のどこが…!大体晃だってもうずっと彼女いないじゃん!」

 噛み付かんばかりに声を荒げる萌ちゃんに、晃くんはウンザリしたように天井を仰ぐと溜息を吐いた。

「俺はいないんじゃなくて、作らないだけなの」

「ふんっ!そんなのただの負け惜しみじゃない」

 腕を組んで勝ち誇った笑みを向ける萌ちゃん。

「違う!俺は……」

 不意に晃くんが私を見た。どうしたんだろう。私は首を傾げる。

「俺は……」

「ちょ、ちょっと晃!零れてる!」

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