もう一度、あなたと…
Act.7 一緒に…入るの⁉︎
部署に戻ると、舞が走り寄ってきた。

「エリカ…大丈夫?」

心配そうに舞が尋ねる。

「平気。ひかるのこと…呼んでくれてありがとう」

ちらっと部長の席を見る。
何事もなかった様な顔で、太一が仕事をしている。
さっきの事を謝ろうともしない。
これまでもきっと、そんな感じだったんだ…。


デスクに戻って仕事を始める。
やり直しを言われた書類の訂正をして、別の仕事に取り掛かる。
それをやりながら思い出した事。新人向けにオリエンテーションをした後の記憶。
個別に提出してもらった書類に不備があって、彼を呼び止めたことがある。




『ちょっと!「たからがひかる」君!』

振り返った彼が口を開く。

『「何ですか⁉︎ …てか、勝手に呼び方変えないで下さい!俺は「たからがひかる」じゃなくて「宝田光琉」です』

偉そうに言い換える彼を、生意気な新人だと思った。

『宝田君と呼んで欲しかったら、このクセ字何とかしたら?』

申請書類のふりがな欄を指さした。
丸っこい字で書かれた「ダ」の字が、どうしても「ガ」に見えてしまう。

『漢字は立派で大きな字なのに、どうして片仮名はこんな小さいの⁉︎ もう少し伸び伸びと書きなさいよ!』

おかげでいつもこっちが修正させられた。
提出期限を守らないのも、いつも彼一人だった。

『この間、出すように言った書類、まだ提出してないのあなただけよ⁉︎ 早く出してくれないと、全員分が先送りされるでしょ⁉︎ 』
『はいはい。出しますよ!出せばいいんでしょ⁉︎ 』

面倒くさそうに返事する彼に、イラっとさせられたのは初めてじゃない。
初対面の時からずっとそうだった。



(でも、この記憶も全部、夢だった…ってことよね…)

カタカタ…と書類を作成しながら考えた。
こんな鮮明に覚えてる記憶が全部夢なら、現実の生活に関する記憶は、一体どこへ抜け落ちてしまったんだろう…。

(そもそも、どうして記憶が混乱してしまってるの…?)

32才のバツイチだと思ってた自分。
でも、26才の私は「たからがひかる」の妻になったばかり。
記憶に残ってるのは、あの古いレトロな町並みと変わらない彼の笑顔だけ。
他は何も…思い出せないーーーー。
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