…水族館に行ったあの日。私はどうしようもなく幸せだった。

仕事場では絶対見せない社長の素顔が垣間見れた気がした。
それに、凄く、優しくて、本当のデートのようで、このまま時間が止まってしまえばいいのにと、思ってしまう程だった。

・・・でも。
その日を境に、社長の態度が一変した。
交わされた秘密の契約があるはずなのに、私に指一本触れなくなった。
それどころか、私のデスクを、元の秘書室に戻し、仕事の要件意外の会話しかなくなった。

・・・まるで、心を完全に閉ざしてしまったように。
触れてもらいたいのに、触れてもらえなくて、寂しくて、悲しくて・・・。

社長の顔を見るだけで、胸が苦しくなった。
…なぜ、こんなにも、社長の事を好きになってしまったんだろう。
…なぜこんなにも、社長を求めてしまうんだろう。

…どんなに想っても、結ばれる事がないのは分かりきっている事なのに。

・・・秘書室の中、私は大きな溜息をついた。

「…大きな溜息をついていると、幸せが逃げていきますよ」

「?!・・・高瀬専務、どうしたんですか?こんなところに」

秘書室のドアに背をもたれかけ、優しい笑みを浮かべている伊織。
…アポもなかった。それどころか、電話すらなかったのに、なぜうちの会社にいるのか?

私は、ただただ伊織を見つめていた。

「何の連絡もなく、突然来てしまってすみません」

「いえ、あの…どうかなさいましたか?…社長はただ今会議中ですが」

慌ててそう言えば、伊織は笑顔のまま首を振った。

「社長に用があって来たんじゃありません」

「・・・」


「私が用があるのは、貴女だ…清水理子さん」

「私、ですか?」

私の言葉に、伊織は深く頷いた。

「貴女に会う度に携帯の番号を聞きそびれて・・・
会社に私用電話するのは失礼かと思って、近くに用があったので、立ち寄りました」

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