鬼部長と偽装恋愛はじめました
え⁉︎ 部長の知り合いなの⁉︎

思わず部長に目をやると、表情ひとつ変えていない。

「なんだ、和樹か。久しぶり」

淡々と、佐原さんにそう言っている。

いったい、どうなってるのよ。

軽く混乱していると、母も驚いたように声を上げた。

「佐原さん、若狭さんとはお知り合いなの⁉︎」

すると、佐原さんは口角を上げて笑みを浮かべると答えた。

「はい。祐平とは、ニューヨークにいた頃に、知人を介して知り合いまして……」

「まあ! じゃあ、若狭さんもニューヨークに?」

どんどん声のトーンを上げる母に、周りの人の視線が向けられる。

「お母さん、立ち話になるし、最上階のレストランを予約しているの。そこに行こうよ」

これ以上、人目について万が一でも部長の知り合いに見られたら大変だ。

慌てて母を制すと、母もすんなり納得した。

ようやくエレベータに乗り、レストランへ向かいながら、私は焦りばかりが広がる。

どうしよう……、よりによってお見合い相手が、部長と顔見知りの人だったなんて。
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