「有難うございました」


バンッ―――――


「こまっ…………ち…………」


元旦の深夜未明、俺は彼女を自宅アパートへと送り届けた。

俺のアパートから彼女のアパートまで終始無言だった彼女。

車から降りる際にたった一言、口にした。

抑揚のない声音で吐き捨てた礼。

振り返る事も無く、自分の家へと向かう彼女。

俺はそんな彼女の後ろ姿をただじっと見つめていた。



俺は彼女を………完全に傷つけてしまったようだ。




早坂小町・29歳。

自分が勤務している会社で、人一倍責任感を持って仕事をこなす女性。


職場では『お局様』と呼ばれているが、俺から見れば、今どき珍しいほどに気配りの出来る心清らかな女性にしか見えない。

ただ難点なのが、何事においても妥協を許さず、完璧を求めるあまりに弱い自分を決して見せず、強い女で振る舞ってしまうような性格だという事だ。

この、………俺のように。




彼女の存在を初めて知ったのは、今から約3年前。


当時、マーケティング部から移動して来た俺は、部長の指示の下、食品メーカー各社の商品を把握する為、小ミーティングルームに数日籠っていた。


ミーティングルームは縦長の部屋で、中央をパーテーションで仕切るという簡素な造りの部屋。

俺はその部屋の奥部分、窓際のスペースを陣取り、テーブルの上に売上データが記されたファイルと季節毎の特売商品の売上データを並べ、目を通していた時だった。


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