「行ってきます」

「あら、また例の子の所?
 あまりご迷惑を掛けちゃ駄目よ」

「うん、分かってる」


 言葉少なにシェリナに出掛ける旨を伝え家を出て行くユイを、シェリナは悲しげに見つめていた。

 離婚してまだ僅かしか時が経っていない。

 離婚からというもの、ユイは以前より増して表情が無くなっていた。

 シェリナに取っては馴染み深い自分が生まれ育った家と両親だが、ユイに取っては初めて訪れた家と初めて会った祖父母。

 まだ慣れるまでには時間が掛かるのだろう。

 だが、そんなユイにも仲の良い友人が出来ていた事にシェリナは少し安堵していた。




 ユイが毎日のように訪れている家に着き、ベルを鳴らすと、迷惑がるでもなく必ず優しい笑顔を浮かべ迎え入れてくれる。


「やあ、ユイ。いらっしゃい」


 ユイより十歳年上だというその青年は、少し目つきは鋭いが年齢より落ち着きがあり、どこか貴族のような気品さを持ち合わせていた。

 
 中流家庭の者が多く住む地域の古い一軒家の主には到底似つかわしくない青年だが、上流階級で育ち、魔法書など難解な書物を読んで過ごしてきたユイに取っては、パン屋の近所で泥だらけ傷だらけになって遊ぶ同じ年頃の子供達より余程付き合いやすかった。


 母と共にパン屋で暮らすようになった当初は、近所の子供達が遊びに誘ってくる事があったが、如何せん、子供らしく遊ぶ事が大好きな子供達と、外で遊ぶより読書と研究のユイとでは価値観が全く合わなかった。



 近所の子供達もユイを誘わなくなり、ユイはもっぱら一般開放された図書館での読書が遊び場となっていた。

 そんな図書館で出会ったのが、このディルクであった。



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