年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~

4



その日は朝から、絵里ちゃんのご機嫌がナナメだった。

「あ、絵里ちゃん、木田邸の変更手続きの書類……」
「今やってます。今日中には渡すので、急がせないでください」

急がせないでもなにも、昨日までに作っといてって言ったじゃない。

不機嫌に私を睨んだ絵里ちゃんは、そのまま立ち上がってどこかへ行ってしまった。トイレなら仕方ないけど、サボる気ならこの書類だけは先に作って欲しい。


呆然と絵里ちゃんの後ろ姿を見送りながら、思わずなにあれ、と呟くと、後ろからコーディネーターの後輩の明日香(あすか)ちゃんが私の耳元で囁いた。


「昨日、木下さんにすっぽかされたらしいですよ」


それを聞いて自然に眉間に皺が寄る。
……あいつ、あの後絵里ちゃんのところへ行かないで、一体なにしてたんだか。

「なーんか、あんまりうまくいってないみたいですよ、最近。せっかく沙羽先輩からうまいこと奪えたのに、早くも破局か、って噂です」

「そんな噂、知らなかった」

「そりゃそうですよ。そんな話、わざわざ沙羽先輩に聞かせるほど、悪趣味な人間いません」

と言いつつ、明日香ちゃんは今ばっちり教えてくれているんだけど。
< 105 / 462 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop