とりあえず店の中へ、と促されて、大輔くんが私の背中を軽く押した。


「まだ営業時間中でしょ? 私、お客さんじゃないけど」

心配になって訊くと、大輔くんが苦笑した。

「もうすぐ閉店だから大丈夫。そんなカッコの沙羽さん、放って置くわけにいかないでしょ」

なんだか話す雰囲気が違うと思ったら、敬語が抜けていた。

こっちのほうが嬉しいな、と思いながら、ほら、と促されて大輔くんの後ろをついていく。
建物の前まで来ると、二階から女の子が降りてきた。

「あれ、葉月(はづき)、もう行くの?」
「はい、辻井さんが行けって。お疲れさまです」

きれいめの顔立ちの、明るい雰囲気の子だった。

すれ違う時に、お疲れ、と返す大輔くんに向かってと、私に対しても会釈をして立ち去っていく。会話から察するに、あの子がこの店のもう一人のスタッフだろう。

「あの子がアシスタントの郷原葉月(さとはらはづき)です。沙羽さんは初めて会いますよね?」

すぐに敬語に戻ってしまった。
残念に思う気持ちを悟られないように、小さく笑う。

「きれいな子だね」

「でもマイペースなんですよね。たまにこっちのペースが乱されるから困ります。俺が注意しても直らなくて」

「先輩みたいだね」

「一応、先輩です」

どうしても、みんなに可愛がられてる弟、っていうイメージが抜けないから、誰かの先輩の役割をしてるのがなんだか不思議。ちゃんと後輩に指導したりしてるんだ。

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