空のギター
 そう、雪那は声のトーンを自在に操ることが出来るのだ。いつだったか頼星を怯えさせたのも、オーディションの日に高校生を恐怖の底に突き落としたのも、全てこの“秘密”のせいである。硝子や他のメンバーも、次々に雪那を「凄い」と誉めた。その言葉を受け、雪那は嬉しそうに笑う。



「うん、俺の声帯って特殊らしいんだよね。医者には『“一億人に一人”の声帯じゃないか』って言われたんだ!」



 へぇー……と感心の声を洩らす一同だったが、ただ一人だけ違う反応を見せた人物が居た。頼星である。



「つーかみんな誉めてるけどさ……“これ”に慣れるのにどれだけ時間かかると思ってんの?俺なんか未だに慣れないんだけど……」


「あら、良いじゃないの!その方が面白くて。」



 硝子に対して頼星が冷やかな目を向けたが、彼女は半ば無視している。他のメンバーにも硝子と同じ反応を取られ、頼星は再び溜め息をついた。

 ──その時。「Quintetの皆さーん!そろそろ出発しますよ!!」という一人のスタッフの声が響く。五人は「はーい!!」と返事をすると、関係者達と共に車に乗り込み、会場へと向かった。
< 40 / 368 >

この作品をシェア

pagetop