空のギター
 この『桜舞う時』は、Setsunaの姉が亡くなって随分経った最近になって書かれたものだ。気持ちの整理を付けるのが長引いたのかもしれない。

 “その日”は桜が風に舞うような日ではなく、真夏の暑い日だった。だが、Setsunaの目にはそう見えたのだろう。

 人が死ぬ間際というのは、とても儚く不思議な時間だ。病室のベッドの上に、Setsunaは一体何を見たのだろう。

 姉と“チャンスを逃さない”と約束したその時──何を思ったのだろうか。



「……皆さん、今日は本当にありがとうございました。これからもQuintetをよろしくお願いします!」



 Kouyaの声が会場に響き渡る。大きな歓声に揃ってお辞儀をし、五人は互いに顔を見合わせた。“やったぞ”という満足げな面持ちで。

 イベントは無事終了し、五人は笑顔でステージを後にする。観客の声と鳴り続ける音が、まだ耳元で響いていた。そんな時、会場の片隅に居た一人の男がゆっくりと外に出ていく。



「やはり私の目に狂いはなかったな。さて……これから面白いことになりそうだ。」



 男がそっと呟く。Quintetはまだ、走り始めたばかりである。
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