腹黒王子の取扱説明書
介護費用が毎月かかるけど、障害者年金だけでは足りない。父の生命保険が一千万下りたけど、このままだと数年後にはなくなるだろう。弟の海里もまだ大学三年だし学費もかかる。

海里と相談して千葉の実家の家を売ったけど、もっとお金が必要だった。

このお店は伯母がオーナーなので、勤務時間は多少融通がきくし、ノルマや同伴もない。

アルバイトだから名刺は持たせてもらえないけど、お客さんに携帯番号を教えずにすんでいるのでかえって都合がいい。

時給は二千円と安めだけど、この金額を他の仕事で稼ぐのは難しい。

「ナナちゃん、待ってたよ。ずっとお休みだったみたいだけど、もう体調は大丈夫なのかい?」

「はい、もうすっかり良くなりました」

私は常連さんに向かってにっこり微笑む。

OLの仕事が忙しくて出勤出来なかったとは、口がさけても言えない。

園田さんは私にとってとてもいいお客様。

有名な会社の役員で、年は五十くらい。話は上手だし、他のお客と違って絶対に身体には触らない。
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