記憶堂書店

お爺さん





「いいお天気ですね」

暖かい小春日和のなか、龍臣が店の前を掃除しようと箒を持って外に出ると、杖を持って帽子をかぶった年配のおじいさんが店先の花壇の脇にちょこんと座っていた。
帽子から見える白髪の髪から、そこそこ高齢だと感じる。
龍臣をにこにこと見上げており、笑顔が可愛らしいお爺さんだと思った。

「こんにちは。いいお天気ですね」

龍臣は微笑み、言葉を繰り返した。
お客さんではなさそうだが、近所の人でもない。見たことがない人だなと思った。
お爺さんは笑顔で頷きながら空を見上げた。
つられて龍臣も空を見上げる。どこからかさくらの花びらが飛んできて舞っていた。

「こんな日はおばあさんと出会った日を思い出します」
「あ、そうなのですか? 良い日に巡り合ったのですね」

龍臣がそう言うとお爺さんは一瞬、悲しげな表情をした。
それを龍臣は見逃さなかったが、お爺さんは黙ってしまいそれ以上は聞けなかった。
言ってはいけなかった一言だったのだろうか。
龍臣は戸惑い、言葉をかけようとした。

「あの……?」
「あぁ、いやいや。すみませんでしたね、お店の前で」

お爺さんは微笑みながらすまなそうに立ち上がって会釈した。
その顔には先ほどのような悲しげな表情はない。
慌てたのは龍臣だ。

「いえいえ。ウチなんかでよければいつでも休んでいってください!」
「ありがとう。でも今日はもう行かなくては。ではまた」

お爺さんは頭に乗った帽子を押さえながら紳士的にスッと頭を下げて挨拶をし、立ち去って行った。




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