記憶堂書店

司書




最近は夏の日射しが厳しくなってきた。龍臣は朝から暑さで目覚ましが鳴る前に目を覚ました。一階からは味噌汁のいい匂いがしてくる。匂いにつられてお腹が微かに鳴った。
大きく伸びをして時計を見ると9時。記憶堂は10時開店でしかも徒歩10分程度の距離にあるため余裕だ。
まだ眠気が残るまま階段を降りると、龍臣の母がキッチンから顔を出した。
龍臣を見てフフッと笑う。

「あら、タイミング良く起きてきたわね。腹時計でも鳴ったのかしら」
「おはよう。……なんでお前が居るんだ」

母に挨拶をしてからリビングへ行くと、テーブルに出された朝食を何故か修也が席について食べていた。
あまりの違和感のなさに、一瞬見逃しそうになったくらいだ。

「おはよう、龍臣君」
「おはよう。いや、質問に答えろよ。というか、学校は? 遅刻だろ」

そう言いながら席につくと母が目の前に味噌汁を置いた。
そして、朝食を食べ終えた修也が首を傾げた。

「龍臣君、夏休みって知ってる?」
「……遠い昔に聞いたことがある。そうか、もうそんな季節か」

夏休みか。外を見るとセミがうるさく鳴いている。
社会人になれば夏休みなんてほとんどない。制服ではないTシャツ姿の修也は気楽そうだ。




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